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●椀貸伝説 わんかしでんせつ

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 膳や椀を必要とするとき,これを頼むと他界の存在が貸してくれるという伝説。貸し主は川・湖・沼などの水,塚墓・洞穴などの穴,そのほか岩石・樹木・地蔵・稲荷などの祠堂とさまざまである。「膳椀渕」「椀貸塚」「椀貸稲荷」などと呼ばれ全国的に分布するが,水渕に縁あるものは矢作川・豊川・利根川など,中部を中心とした水系に多く存し,塚穴に縁あるものは徳島県などに多く存する。その伝承はほぼ一致したモティーフに沿って語られる。すなわち,共食のとき必要な膳椀をこの場所に頼むと貸してくれたが,一部を破損したり盗んだりして以来永久に貸さなくなったというものである。これらの貸し主は,いわば富貴円満の他界に住み,水辺は龍宮,孔穴は地下浄土に通じるものとして観想されていたらしい。一方,盗んだ膳椀を今に伝える家々がところどころにあるが,その膳椀は,他界との交通の聖資格をもつ特別の家柄の証明とされたものであろう。柳田国男は,この話の伝播に木地屋の関与があったことを推論している。この話は,彼我の両界が禁忌の侵犯によって永遠に別れ去るという神話的観想に基づくものであり,膳椀の破損・偸盗(ちゅうとう)は話の構造上不可欠である。異郷からの宝の将来は昔話の「鼠浄土」や田原藤太龍宮入りの説話にも共通するが,膳椀破損のモティーフは「皿屋敷」の伝承とも対比されるべきものであろう。椀貸し伝説の類話は中国・インド・ドイツ・フランス・イギリスにもあり,今後の比較研究が必要と思われる。〔参考文献〕柳田国男「隠れ里」『一目小僧その他』1934(定本5)