●歴史地理学 れきしちりがく
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過去に関する地理学。地理学の体系のなかでは,歴史的地域地理学は地誌学に属し,一般歴史地理学は研究対象によって分類すれば,農業地理学や都市地理学と同様に,人文地理学の一分野に属するが,社会地理学や経済地理学のように,考察方法として歴史地理学的アプローチを考えることも可能である。たとえば,農業地理学のなかにも農業の歴史地理学的研究があり,都市地理学においても都市の歴史地理学的研究が成り立つ。したがって,歴史地理学は,ハーツホーンが「もう一つの地理学」と呼んだように,きわめて広い研究領域を含む。当然のことながら,歴史地理学は歴史学と密接な関係にある。歴史地理学は自然的および人間的営力の人文地理事象への影響,人間の地表面への働きかけ,さらに空間構造物としての景観や地域の変化に関する研究に重きをおくもので,歴史的事件そのものよりも,それが地域形成の要因となる限りにおいて考察の対象となる。また,自然的営力によって生ずる自然景観の変化については自然地理学の研究対象であるが,歴史時代における自然景観の変化過程については歴史的自然地理学と考えることも可能である。歴史地理学は,その取り扱う資料の差異によって考古地理学と文献歴史地理学とに区分することができる。考古地理学では古い景観の文化的生態系を復原したり,環境変化の意義を考察するには,古生物学や古気候学・考古学との協力が必要である。
上述のように,歴史地理学には一般法則追求的なものと地誌学的な研究があり,前者は過去のある時点空間における個々の景観や地域性を究明し,究極的には景観発生史を求めようとするものである。一方後者には,過去のある時点の大空間的な比較考察によってその時代の人文地理的事象の全体的特徴を把握する断面的研究と,分布や構造・機能の変化に注目しながら人文地理的事象の発達史にみられる一般性・法則性を追究する縦断面的研究とがある。たとえば,15世紀ヨーロッパ諸都市の地理的特徴とか,明治以後の大阪市の景観変遷史的特徴を求める研究がこれに当たる。
過去の景観研究においてよく利用されるのは逆行法である。これは,現在の文化景観の分析から過去のそれぞれの時代に成立した景観部分を識別して,後世に加えられた景観部分を消去しながら歴史をさかのぼり,目的とする過去の文化景観に到達する方法である。過去の景観復原には古地図・古文書・土地台帳をはじめ耕地名や地表遺物などが利用され,花粉分析やC14年代測定法なども用いられる。
【合衆国・イギリスにおける第二次世界大戦後の歴史地理学の発展】それは3期に区分される。まず第1期は地形学とともに地理学の2大領域とみられていた時期で,文化景観の復原と土地制度の分析が中心をなし,厳しい実証主義にもとづくものであった。やがて1950年代末から60年代前半にかけて計量革命の時代になると,空間組織の一般原理の発見を重視するなかで歴史地理学は脇役の位置に追いやられたが,なかには,新しい空間科学の概念や手法を採用しようとする研究も現れた。たとえば,バーカーは19世紀フランスの農村集落の構造的差異をみるのに最隣接者測定法を使用した。これらの研究はいずれも,空間構造分析に注目したものであるが,歴史地理学にとっては,一次元的な法則追究や構造分析よりも地域統合の研究がより重要なものであり,システム分析が有効と考えられる。
さらに,空間地理学に対する批判が高まった第3期は,前2期の研究の和解,統合の時期とみられ,時空間データ行列の計量的手法を採用しながらも,その平板的分析から脱して人文主義地理学や伝統的な環境研究を志向している。一方では,社会経済史・歴史人類学との親交を回復し,他方では考古学などとの協力による環境研究がみられる。