●歴史教育 れきしきょういく
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歴史教育とは,生徒の発達段階を考慮しつつ教育的に系統化された歴史科学体系の視点,概念,知識を獲得する過程で,歴史的な見方・考え方(または思考力や方法的能力)の発達をめざすことを目的とした教育のことをいう。したがって日本の場合では,主として高等学校の「日本史」,「世界史」の教育および大学での歴史に関する教育のことをさす。これに対して,中学校社会科歴史的分野における学習は,「歴史学習」と呼ばれ,小学校社会科第6学年における歴史的内容に関する学習は,「社会科における歴史のまとまりの学習」と考えられている。さらに,中学校社会科歴史的分野においては,地理的条件や民俗的資料の活用も重視され,また社会科学的(政治・経済的)視点や概念が参入するが,歴史教育においては,地域概念,文化価値のほか,主として歴史科学体系の視点・概念・知識が最も深くかかわっている。【歴史教育と歴史科学】歴史教育は歴史科学体系の二つの類型のもつ本質的な視点と関係が深い。一つの類型は,主として近代ヨーロッパで発達した「通時的歴史学」であり,他の一つの類型は,主として東アジアで発達した「共時的歴史学」である。前者のもつ本質的な視点は,(1)今昔の相違(2)歴史の起源(3)変遷と発達(4)歴史的な因果と影響(5)歴史の発展などにかかわるものであり,また後者のもつ本質的な視点は,(1)時代の特色(2)事象の関連と交流(3)同時代の比較(4)事象の歴史的位置(5)時代・事象の歴史的意義にかかわるものである。わが国における歴史教育または歴史学習においても,その目標と通時的歴史学,共時的歴史学のもつ視点とは,深い関係をもっている。たとえば,現行の中学校社会科歴史的分野の目標(2)は,「歴史における各時代の特色(共)と時代の移り変わり(通)を,地理的条件にも関心をもたせながら理解させるとともに,各時代が今日の社会生活に及ぼしている影響(通)を考えさせる。」となっている。また目標(4)は,「歴史にみられる国際関係(共)や文化交流(共)のあらましを理解させ,他民族の文化,生活(共)等に関心をもたせて国際協調の精神を養う。」となっている。このような目標において,通時的歴史学の視点とを身につけさせようとしている。歴史教育と歴史科学との共通点は,科学的方法論とともに目標・視点の類似性にある。
【歴史教育の目的】歴史教育は,教育における人類・民族・国民の過去および文化遺産に関する陶冶(Bildung)と訓育(Erziehung)であるともいわれる。陶冶を主とする歴史教育として,(1)それは歴史学の立場からの応用史学であるとする歴史教育論と,(2)それは教育学の立場からの教科教育であるとする歴史教育論とがある。前者には戦前・戦後の歴史学者が多く,後者には,最近の若い教科教育学者に多い。また,価値教育としての訓育を重んじる歴史教育論には,(1)の立場の人々が多く,できるだけ価値教育を排除して,科学的客観的な歴史教育の建設をめざす歴史教育論には,(2)の立場の人々が多い。
歴史教育の目的も,各国の歴史や伝統,社会体制や教育政策,時代環境や歴史学の状況などによって著しく異なる。また個人の教育観や歴史観によっても,その目的論はさまざまである。日本における歴史教育の目的論としては,次の五つの類型が顕著である。
1.理解・教養・教訓的歴史教育
歴史の事実・歴史事象の個性を尊重し,これを正しく理解して,自己の教養として知識を豊かにするとともに,歴史事象のもつ教訓的意味を大切にする歴史教育のこと。日本の戦前における歴史教育の型であるが,今日もきわめて盛んであり,知識暗記の歴史教育として批判が強い。
2.価値・訓育・科学的歴史教育
歴史事象を生産力の発展と生産関係でとらえ,唯物史観に立って階級的歴史認識と実践行動力を育てようとする歴史教育のこと。戦後,急速に発展し今日でも教育界で大きな力をもっている。
3.生活・社会的,経験的歴史教育
現代における生活・社会的な,また現実的な諸問題を解決していくために,児童・生徒の経験を基礎にしつつ,社会事象の歴史的背景や系譜をさぐり,諸課題を問題史的に解決していく歴史学習のこと。戦後,社会科の登場によって盛んとなり,主として小学校,中学校で行われてきたが,今日ではあまり盛んではない。
4.分析・法則・科学的歴史教育
ポパー,ヘンペルらの分析哲学や科学説明的歴史教育論にもとづき,できるだけ価値観や情緒を排除して,歴史事象を分析的・科学的に説明し,歴史における一般法則を教授する歴史教育のこと。最近登場してきた新しい歴史教育論であるが,多くの人に必ずしも支持されているとはいいがたい。
5.知・情・意の発達をめざす人間形成論的歴史教育
児童・生徒の人間形成の重要な一環として,とくに時間的因果の思考力や発展・連続の観念を育成しつつ,人間としての知・情・意の全面的発達をはかろうとする歴史教育のこと。今日の学習指導要領にみられる歴史教育は,この目的論に近いが,受験体制の弊害や教科書の特性などもあって,現実の姿はこの目的論からはほど遠い感がある。
【日本の歴史教育】日本では,文部省の定める学習指導要領にもとづいて,小・中・高等学校の社会科のなかで歴史教育(または歴史学習)が行われている。小学校では第6学年で,「国家・社会の発展に貢献した先人の業績や優れた文化遺産についての関心と理解を深め,わが国の歴史や伝統を大切にしようとする態度を育てる。」ことを目標として,約70時間の歴史学習が行われている。中学校では歴史的分野(第1・2学年)で,「我が国の歴史を,世界の歴史を背景に理解させ,それを通して我が国の伝統と文化の特色を考えさせるとともに,国民としての自覚を育てる。」ことを目標として,世界史的内容も含め(約3割),主として日本史の通史学習が行われている。中学校では,地域の生活文化を取り上げたり,地理的分野の関連を重視している点が特色的である。高等学校では,必修科目「現代社会」の学習の基礎の上に立って,選択科目として「日本史」(140時間),「世界史」(140時間)を学習することとなっている。両科目とも「主題学習」を取り入れている点で特色があり,広く各国の歴史教育界から注目されている。「日本史」では,日本文化の展開を総合的に考察させ,また「世界史」では,文化圏学習を行わせている点が特色的である。 教科書は,民間の教科書会社が編集したものが検定認可されて,学校で使用されているが,内容の精選や教科書検定をめぐって,いろいろと議論が多い。
【世界の歴史教育】ソ連・中華人民共和国を初め共産圏諸国では,概して歴史教育を重視し,共産党と政府の指導のもとで,社会主義社会の建設・発展に献身できる人間の育成をめざして教育が行われている。歴史教科書は,政府またはそれに準ずる機関発行の国定教科書が使用されている。
アメリカ合衆国では,州ごとによって教育制度が異なり,また各学校における歴史教育もさまざまである。しかしながら,概して歴史教育(自国史と世界史)を重視している。学者の研究による新しい歴史教育論は多いが(教育方法・技術の進展はみられるものの),なお通史学習がその主流である。ヨーロッパ各国では,西ドイツやフランスの歴史教育が注目されている。西ドイツでも州ごとに歴史教育の状況は異なるが,教授理論として優れたものが多い。フランスでは,「目ざまし科目」の一部として歴史学習が取り上げられており,またリセー(中・高校)においては,世界史教育の新鮮さが注目される。