●ルネサンス
ヨーロッパ イタリア共和国 AD
14世紀ごろから,イタリアを中心にしておこった古典文化の復活をめざした人間主義的文化運動。イタリア諸都市は古代ローマ文化を継承できる立地条件にあった上に,東方貿易によって栄え,市民のあいだに自由な空気が強かった。また,ビザンツやイスラーム文化の影響も取り入れるなど,先進文化の刺激があったことなどが,ルネサンスをおこす前提になった。その概要を時代別に述べれば,次のようになる。【第1期】一般的には14世紀(トレチェント)を当てる。ベアトリーチェとの出会いがその一生を決定したといわれるダンテ(1265〜1321)は『新生』を発表後,フィレンツェの政治にまきこまれて追放され,『神曲』をトスカナ語で書いた。ヴィラーニ(1275ごろ〜1348)は,黒死病で死ぬまで『フィレンツェ年代記』をイタリア語で書いて,歴史を客観的にみることを実践している。ボッカッチオ(1313〜1375)は『デカメロン』のなかに,社会の各層を代表する人物を登場させながら,新興市民による人文主義的批判を既存社会にあびせたし,その友人ペトラルカ(1304〜1374)は人文主義運動の先頭に立ち,ギリシア・ローマの古典古代の文献収集につとめ,登山そのものを目的とするモン=ヴァントゥー登山を行った。古代の復興,人文主義の抬頭するなかで,ジオット(1266ごろ〜1337)は,その師チマブエとともにルネサンス絵画・彫刻・建築に,ビザンツ美術やゴシック美術を排して,人間愛に満ちた,自由な作風を導入した。
【第2期】15世紀(クワットロチェント)になると,トルコに脅かされたビザンツ帝国から,多くの学者が避難してイタリアに来たことや,貴族化してきた大市民の保護を受けて,人文主義はギリシアの原典研究にむかった。コシモ=デ=メディチの創設したプラトン学園を中心にして,サルターティ(1313〜1406)の活躍のあとを受けて,アレティーノ(1492〜1556)やカマルドリ論争で著名なアルベルティ(1404〜1472),「コンスタンティヌス寄進状」が偽作であることを証明したヴァラ(1406/07〜1457),『フィレンツェ史』や『君主論』の傑作を残したマキァヴェリ(1469〜1527)らがでて,古典主義的な理想主義や新しい教養を探った。美術はフィレンツェを中心に,彫刻ではギベルティ(1378〜1455)・ドナテロ(1386ごろ〜1466)らが,フレスコ画中心の絵画ではマサッチョ(1401〜1428ごろ)・フラ=アンジェリコ(1387ごろ〜1445)・ボッティチェリ(1444ごろ〜1510)・ヴェロッキョ(1435〜1488)などがでて,宗教的テーマをとっても,人間や自然の写実主義が定着してきた。
【第3期】15世紀末から16世紀(チンクェチェント)がこれに当たる。フィレンツェが衰え,代わってローマ,マントヴァが中心地となり,最後にはヴェネツィアへ移行していった。先人の長所を総合して,甘美で気品に富む作風のラファエロ(1483〜1520),15世紀のアルベルティとともに,自然科学者であり,築城・建築・音楽にも秀でていて,万能の天才といわれるレオナルド=ダ=ヴィンチ(1452〜1519),彫刻と絵画のミケランジェロ(1475〜1564)らが,壁画も含めて,人類の宝ともいうべき作品を,遠近法を用いて,すさまじい迫力で画いた。ヴェネツィアではティチアーノ(1477〜1576)やジョルジョーネ(1478〜1510)・ティントレット(1518〜1594)らが世俗的で,甘美で華麗な作品を残し,油絵が出現してきた。
【北方ルネサンス】このころから地中海を利用した東方貿易が衰え,イタリアの経済力が低下してきた。イタリアの戦乱は芸術・学問の中心をアルプス以北に移していった。北方ルネサンスといわれるのがこれであるが,これがイタリアからの移植であったか,オリジナルなものが強いかは学説が分かれる。北方ルネサンスはイタリア=ルネサンスが直観的・視覚的で,古典に対しても親しみをもっていたのに対し,知性的・批判的傾向が強い。このため,人文主義の流れはエラスムス(1466ごろ〜1536)のように,公用聖書の誤りを正し,偽善を諷刺した『痴愚神礼讃』を残し,イギリスのトーマス=モア(1478〜1535)は『ユートピア』において私有財産制を批判し,イギリス社会に疑いの目を向けた。ドイツでは宗教改革と結びつく人文主義者であるロイヒリン(1455〜1522)・メランヒトン(1497〜1560)・フッテン(1488〜1523)が出現した。フランスではフランソワ1世の保護のもとで文芸がおこり,諷刺と皮肉に富んだ『ガルガンチュワ物語』を残したラブレー(1494ごろ〜1554)や『随想録』のモンテーニュ(1533〜1592)が懐疑主義の道を開いた。文学書としては,イギリスのチョーサー(1340ごろ〜1400)の『カンタベリー物語』,スペインのセルバンテス(1547〜1616)の『ドン=キホーテ』があげられる。美術では,ファン=アイク兄弟(1366〜1426, 1370〜1441ごろ)・ホルバイン(1497〜1554)らがでるが,とくに,デューラー(1471〜1528)は力強く,神秘的な作品を残し,ブリューゲル(1520ごろ〜1569)は農村や農民をテーマにしている。