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●類感呪術 るいかんじゅじゅつ

AD  【定義】イギリスの人類学者フレーザーの用語。フレーザーは呪術的思考を考察し、それが“共感の法則”にもとづくものであり、したがって、呪術は“共感呪術”と呼ぶことができると論じた。そのような共感呪術は、さらに、類似の法則にもとづく“類感呪術”と接触あるいは感染の法則にもとづく“感染呪術”との二つに分けられる。ここで類感の法則とは、〈類似は類似を生む、あるいは結果はその原因に似る〉という思考原理によるものである。なお、類感呪術は、模倣呪術ともいいうるが、フレーザーの考えでは、呪術は必ずしも模倣・模擬されるべき人格的行為者を含んでいなくても可能なので、そのような存在を暗示する“模倣呪術”という語より、“類感呪術”という方が類似の法則を基礎とした呪術の名称として適切であると思われる。

【類感呪術の具体例】フレーザーは大著『金枝篇』のなかで、数多くの類感呪術の例をあげている。ここでそのいくつかを紹介しておこう。(1)オジブワ=インディアンでは、ある人物に危害を加えようと思うと、その人物に擬した小さな木像をつくり、頭部や心臓部に釘や矢を打ちこむ。こうすると、狙われた者は、木像に釘や矢が刺された同じ時刻に、同じ身体の部位に激痛を感じる(これは、日本の民間信仰における“丑の刻参り”と類似した呪術である)。(2)ボルネオのダヤク族の一部では、難産のときには妖術者が招かれる。彼は妊婦の役を演じ、胎児に擬した石を腹にのせ、それを徐々に下方に押しさげ、出産を促進させる。(3)古代ヒンドゥーでみられた黄疸の治療法として、本来黄色である動物や物体に黄疸を移し、そのかわり健康の赤色を赤牛から患者に転移させることを目的とする入念な儀礼が行われた。(4)オーストラリアの諸部族において、食料確保のために、トーテム動物の絵をかき、叫び声をまね、行動を模したりしてその動物種の増殖を願う儀礼が行われている。(5)エスキモーの子供たちは、大人になってから銛綱が指にからまりつく事態をさけるため、綾とり遊びを禁じられている(これは一種のタブーである。フレーザーはタブーを“消極的呪術”と位置づけており、それにも類似の法則や感染の法則は適用されていると論じている)。(6)ハイダ・インディアンでは、男たちが戦場にいった留守のあいだ、妻は早起きして子供たちを敵に擬し、ねじふせて捕虜として連行するまねをした。夫が戦いで同じ行動をすることを願ってである。(7)ヨーロッパの各地で謝肉祭のときなどに、空高く跳びはねて踊るが、それは植物を高く成長させるためである。(8)ジャワの夜盗はめざす家に侵入する前に、その周辺に墓場の土をまきちらす。それは、その家の人々が死者のように深い眠りにつくことを狙っている。(9)サマルカンドの母親は、赤ん坊に砂糖菓子を与え、そのベトベトした液を掌になすりつける。成長してからの子供のことばが甘くなめらかになり、多くの貴重品を手に入れることができるように願うからである。(10)南アフリカの戦士たちは、戦闘のさいにネズミのように敏捷に動きまわり敵の槍からのがれられるようにと、ネズミの毛を自分たちの頭髪に結びつける。以上はフレーザーのあげた類感呪術の例のほんの一部である。なお、注意しなければならないのは、最後にあげた例からもわかるように、一つの呪術のなかに類似の法則と感染の法則が併存しているように思える場合も数多く存在しているのである。その意味で、類感呪術と感染呪術とはまったく排他的なものではないといえよう。

〔参考文献〕フレーザー、永橋卓介訳『金枝篇(全5巻)』1966〜67、岩波書店