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●リンカーン

北アメリカ アメリカ合衆国 AD1809 

 1809〜1865 アメリカ合衆国第16代大統領(在任1861〜65)。ケンタッキー州生まれ。父方の先祖は17世紀初めにイギリスからマサチューセッツに移住。農夫兼大工であった父親に伴われてインディアナ・イリノイに移り住み,成長期をフロンティアの開拓地ですごした。のちにイリノイ州ニューセイラムに定住し,商業に従事,また郵便局長・測量士代理をつとめた。1832年インディアンとのブラック=ホーク(黒い鷹)戦争の際志願したが,戦闘は経験しなかった。同年ホイッグ党からイリノイ州議会議員選挙に出るが,落選。しかし1834年には当選し,以後1842年まで4期つとめた。独学で法律を修め,1836年弁護士試験に合格,翌年州都スプリングフィールドで弁護士を開業した。1842年ケンタッキーの名門出のメアリー=トッドと結婚。1846年合衆国議会下院議員にホイッグ党から立候補し,当選。メキシコ戦争(1846〜48)の正当性に疑いをもっていたリンカーンは,メキシコから得た領土では奴隷制を認めないとする“ウィルモット修正条項”に賛成投票した。下院議員を1期だけで引退し,以後スプリングフィールドで弁護士業に専念した。

【“分れ争う家は立たず”】その間に,奴隷制をめぐる南北の対立は深まっていった。北緯36度30分以北には奴隷制を認めないとする「ミズーリ協定」(1820)があったが,この地域への奴隷制の拡大を事実上認める「カンサス=ネブラスカ法」(1854)の成立とともに,奴隷制反対の声は一段と高まり,1856年同法を批判する共和党が結成された。リンカーンはただちに入党し,再び政治活動を始めた。1858年合衆国上院議員の共和党候補に指名され,再選をねらう−−「カンサス=ネブラスカ法」の立案者でもあった−−スティーヴン A.ダグラスと奴隷制の存廃について激しい論戦を展開し,結局僅差で敗れたが,彼の名は全国的に知られるようになった。とくに共和党大会での指名受諾演説のなかで,〈この政府は永久に半分奴隷で半分自由という状態に耐えることはできない〉と述べた部分は,演説家としての彼の評価を高めるとともに,奴隷制の拡大に反対する彼の立場を明らかにした。

【“偉大な解放者”】1860年の大統領選挙において,リンカーンは共和党の候補者として指名された。民主党が分裂したために,一般投票においては40%の得票しかなかったにもかかわらず,選挙人票では303票中180票を獲得し,当選した。リンカーンの大統領当選に南部諸州は奴隷制存続への危機感を強め,彼の大統領就任(1861年3月4日)までに7州が連邦を脱退し,“南部連合国(アメリカ連邦)”を結成した。大統領就任演説においてリンカーンは,奴隷制問題にかかわりなく連邦維持こそが最大目的であることを説き,その他の南部州に対し,連邦にとどまることを強く要請した。しかし4月,南部側はチャールストン港外のサムター要塞を砲撃し,新たに4州が連邦を脱退するに及び,リンカーンは志願兵を募集し,南北戦争が始まった。リンカーンは開戦となっても,奴隷の処遇についてはあえて触れなかった。アンティータムの戦い(1862年9月17日)の勝利によって攻勢に転じると,リンカーンは連邦側の道義性を強調することによって北部内の政府批判をかわし,さらに外国の南部連合国承認を阻止するという政略から,1862年9月に「奴隷解放予備宣言」を,1863年に「奴隷解放宣言」を出した。1864年の大統領選挙において,リンカーンの再選は危ぶまれていた。共和党の急進派が南部脱退州の連邦復帰に関する大統領の政策を寛大すぎると批判する一方,民主党などが議会の内外で長期化する戦争に反対していたからである。しかし,ユリシーズ=S.=グラントの連邦軍総司令官着任により戦況が有利になったことが幸いして,リンカーンは再選を果たした。再建に対する彼の方針は,第2次就任演説(1865年3月3日)の,〈何人に対しても悪意を抱かず,すべての人々に慈愛の心を持つ〉という言葉に表明されたが,共和党内の急進派はあくまでも強硬な手段を採るように主張して,大統領と対立した。1865年4月9日ヴァージニア州アポマトックスにおいて南軍総司令官ロバート=E.=リーが降伏し,戦争は終わった。その5日後の夜,リンカーンはワシントンのフォード劇場で観劇中,南部人 J.W.ブースによって撃たれ,翌日没した。南北戦争の激戦地ゲティスバークで行った演説−−〈人民の,人民による,人民のための政治〉−−において,彼はアメリカン=デモクラシーの理念を世界に向けて発表し,また第2次就任演説において,対立する陣営が平和のうちに共存するという理想を描くなど,彼自身は事業半ばにしてこの世を去ったのであるが,リンカーンの遺した足跡は大きい。

〔参考文献〕本間長世『リンカーン』1968,中央公論社

カール=サンドバーグ,坂下昇『エブラハム=リンカーン』全3巻,1972,新潮社

井出義光『リンカーン』1974,清水書院

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