●予兆 よちょう
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俗信の一つで,将来おこるはずの事実の前知らせ。前兆・兆し・しるまし・胸告げなどとも言う。【自然現象による予兆】(1)地震・雷・流星・月食などの天然現象を,何かの予兆と見る場合がある。地震は,天変地異の前触れであるとか,箒星(彗星)が出ると戦争が起こるとかは広く知られている。(2)気象上の予兆は極めて多い。夕焼けがあると明日は天気。朝焼けは風。(3)動植物の状態を何かの予兆とするもの。なまずや雉子(きじ)が地震を予知して騒いだり鳴いたりする。烏鳴きが悪いと人が死ぬ。大根の根が長いと大雪が降る。(4)灯火の明滅・煙の流れる方角・かまどの火や物音なども何かの予兆と考えている。湯を沸かしている鉄びんが笛を吹くような音を出すと翌日は晴れる。鍋尻のススに火がついてチラチラすると風が吹く。または来客がある。火葬の煙がなびくとその方角に次の死人が出る。
【人に関する予兆】(1)運命的・生れつきの特徴を何かの予兆とするもの。頭のつむじが二つある人は倉を2つ建てる。両まゆのあいだにホクロのある人は,天下ボクロといって偉人になる。歯の間のすいている人は親子の縁が薄い。または親不孝だ。(2)人の動作や行動によるもの。お墓で転ぶと長生きできない。柿の木から落ちると三年のうちに死ぬ。朝出がけに靴のひもが切れるとよくないことがある。(3)偶然の出来事を予兆とするもの。茶柱が立つと客がくる。または何かよいことがある。家でつくった味噌が酸っぱくなると死人がある。(4)夢・夢知らせ・夢枕に立つなどと言って,夢も予兆の一つと考えられてきた。一般によい夢とされているのは,一富士・二鷹・三なすび・四葬式・五火事。全国共通とは言えないが,蛇の夢・人に刃物で切られる夢・便所の溜のいっぱいになった夢・橋を渡る夢・入舟の夢・浪に追われる夢・潮水の満ちてくる夢などがよい夢とされており,悪い夢には,田植えの夢・牛の夢・人の集まる夢・嫁じたくなど立派な着物を着た夢・筍の夢・魚を捕った夢などがある。
【予兆の意味と分類】以上は何を予兆と見るかを示したものであって,事例をグループにまとめたにすぎない。一見,何の根拠もないような予兆にも,言い始めた意味があるはずである。その場合に,原因と結果との間の因果関係を,現代の科学的な論理で解決しようとしても結論が出ない。俗信は直感的な連想によって成り立っている部分が大きいのである。「烏鳴きが悪いと人が死ぬ」と言う。烏が鳴いて人の死ぬ道理がない。だからでたらめだということではなくて,烏の鳴き声から,墓場に群れて枕飯・枕団子を食いあさる状況を連想し人の死に結びつけたのである。そこで,原因(とされるもの)と結果との結びつきの状態から分類を試みると,直接連想・間接連想・経験知識・心霊的現象の四つに分けることができる。(1)直接連想は直感的に連想の及ぶものである。地震は天変地異の兆し。ぐらっと来たとき,これから世の中が明るくなるだろうと思う人はいない。不安の気持ちを率直に示したものである。口の大きな人は一生食い物に困らない。(2)間接連想は,一段階隔てて連想につながるもの。朝,最初に坊さんに会うと縁起が悪い。坊さんが悪いわけではなくて葬式を連想するからである。烏鳴きが悪いと人が死ぬというのも同様である。(3)経験知識予兆のなかにも観天望気によって,地域的な天気予報を的中させるものがある。長い年月かけての経験の積み重ねであるからかなり正確なものもあるが,統計をとる技術は科学的でなく,偶然の集積を排除することが困難である。したがってつねに正しいとは限らない。(4)心霊的現象 仏壇の鉦(かね)がひとりでに鳴ると人が死ぬ。台所に人の気配がすると女の死人がある。耳の奥ががんがん鳴ると同年者が死ぬ。予兆の事例を文字どおりに受け取るのは意味がないが,扱い方によっては民族心理研究の好資料となる。〔参考文献〕井之口章次『日本の俗信』1975,弘文堂