●予祝儀礼 よしゅくぎれい
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年の初めに来たるべき一年間につくる農作物の豊熟を祈願して,農作物をつくる所作などを真似る模擬儀礼。予祝儀礼は正月の上旬から中旬にわたる20日間に集中して行われている。これらの予祝儀礼には,稲作・畑作・稲作=畑作の複合という要素が見られる。近年までは,稲作に偏重していたので畑作が等閑されてきたきらいがある。稲作儀礼では比較的に積雪の多い東北日本に庭田植系の儀礼が顕著に見られること,また,本土では稲作の基本儀礼(播種・田植え・収穫)の他に,予祝儀礼が独立儀礼として存在しているが,沖縄の稲作儀礼には見られないことが特徴の一つであることなどが知られている。要するに,稲作儀礼の面からしか予祝儀礼の研究はなされてこなかったと言える。倉田一郎は,〈予祝行事は,本来わが国農民の欠くことのできぬ作法であった〉と考えて,予祝儀礼の性格や変遷を明らかにするために,モノツクリ系とサツキ系との二つに分けて考えた。杉山晃一は,本土の稲作儀礼の類型別・地域別分類を試みるなかで,予祝儀礼の分類と統括的な解釈を施した。それによると予祝儀礼を,(1)農作の実際のプロセスを模倣して,来たる年の豊作の成功を念ずる類感呪術的行事,(2)来たる年の豊作の豊凶を占う行事,(3)豊作促進に関係があると思われる性的な行事,の三つに大別した。(1)には,田や畑を鍬などで簡単に掘りおこす行事から田植え・稲刈り・穂積みを模倣した行為があり,また餅花や削り掛に見られるように,稲だけに限らず粟・稗・大根などの畑作物まで含む農作物の見事に豊熟した状態を模倣したものがある。さらに養蚕が農村に普及してから繭玉なども見られるようになった。(2)には,その年の作柄やそれと関係のある天候と品種などを占う行事として,粥占・豆占・鳥追い・弓射行事・綱引きなどがある。(3)は若干であるが田植時に見られる墨塗りや水掛けなどの習俗がある。伊藤幹治は,類別して次のような四つに整理した。(ア)稲作プロパーの栽培過程のプラクティカルな模擬行為としての,田打ち・種蒔き・田植え・稲刈り・穂積み,(イ)稲作=畑作複合の象徴的な模擬行為としての“小正月の訪問者”や鳥追い・モグラ打ち・墨塗り・火掛け・害虫駆除など,(ウ)稲や畑作物の結実した姿を削り花などで象徴化して,これで家で祀る神の前に飾り立てる“モノツクリ”と呼ばれる慣行,(エ)稲作=畑作複合を下敷きにした年占的要素としての粥占・綱引き・弓射・鳥追いなどの慣行である。先の倉田は,これらの予祝儀礼が東北日本に集中している点に注目し,(ア)と(ウ)を予祝儀礼の基本形と考えて,(ア)をサツキ系,(ウ)をモノツクリ系と称した。以上からもわかるように,予祝儀礼は正月行事のなかに集約的に表象しているが,その内容も変化に富んでいる。また,畑作の要素や畑作に関する儀礼も極めて多い。今後はとくに畑作地帯における予祝儀礼に注意を払うべきであろう。
たとえば,埼玉県秩父郡吉田町では1月11日のカダテには年男が,鍬・松の枝・升に入れたオサゴ・小豆・米の餅2片・半紙をもって表畑に行く。そこで麦のサクを3サク引く。そして麦のサクごとに米の餅の隅を欠いたものと小豆を埋める。家によってはまん中のサクヘ小豆と餅をまとめて埋める。さらにまん中のサクの中央部分に半紙を敷き,その上から松の枝を地面に突き立て松の根元にオサゴをまいて,柏手を打って拝むという。稲作地帯のクワイレ(鍬入れ)に比較すると大きな差異は見られないが,畑作地帯では麦畑が祭場となり,稲作地帯では水田・水田と畑の両方・畑などがそれぞれに祭場となっている。また,稲作儀礼においては,年占の習俗が小正月に集中して見られたが,麦作儀礼では十五夜や十三夜に年占的要素が見られる。今後は,稲作を基軸とする価値体系によって特色づけられるような文化類型に対立する,畑作を基軸とする第二の文化類型が見直される状況のなかから,畑作の予祝儀礼を明らかにする視点が出てくるであろう。