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●預言者 よげんしゃ

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 ムスリムの言語学者のなかには,アラビア語の「情報」とか「高い」といった語からの派生語と考える人もいるが,一般にはヘブライ語あるいはアラム語からの借用語であるとされている。このことは,「預言者」という概念がユダヤ教やキリスト教についての知識が増加するにつれて,『コーラン』のなかに表れてくるという見解を反映している。したがって「預言者」の語が出てくるのは,ムハンマドがメディナに移住(ヒジュラ)して以後の章句にである。『コーラン』の第4章163節や第6章83節〜89節,その他の章句に預言者の名前が挙げられている。アダムを初めとして,ノア(ヌーフ)・アブラハム(イブラーヒーム)・イサク(イスハーク)・ロト(ルート)・ヨセフ(ユースフ)・モーセ(ムーサー)・ダビデ(ダーウド)・ソロモン(スライマーン)などの『旧約聖書』の人物や,ザカリヤ(ザカリヤー)・ヨハネ(ヤフヤー)・イエス(イーサー)など『新約聖書』の人物の名が見える。厳密な意味からして預言者と言えないようなダビデやソロモンといった人の名も見える。第2章213節には〈人間はかつて一つの民族であった。神は預言者たちを吉報の伝達者として,また警告の伝達渚として遣わされた。またかれらと一緒に真理の啓典を下し,人びとの論争を裁定させたもうた〉とある。預言者とは別に,神の「使徒」が昔の人々に遣わされたことが述べられている。聖書に現れる預言者たちの他に,フードやサーリフといった聖書にはないアラビア固有の伝説による人物の名前が見え,彼らはすべて使徒と呼ばれる。第7章65節〜79節や第11章50節〜89節その他の箇所に,アード族のもとにそのなかから選ばれたフードという使徒が遣わされ,同じくサムード族のもとにそのなかから選ばれたサーリフという使徒が遣わされたことが見える。アード族は伝説上のアラビア半島南部の住民で,イエーメンやハドラマウトを含む広大な地域を領有し,巨大な身体をもち運河やダムの構築に長じていたと言われ,サムード族はアラビア半島北西部の岩地に居住しナバターン族がその後裔とされている。その他,歴史的には不明な北西アラビアのミデヤン人に遣わされたシュアイブという使徒の名も表れる。彼らは預言者と呼ばれていない。第16章36節に〈まことわれ(神)は,それぞれの民に一人の使徒を遣わして,神に仕え邪神を避けよと命じ給う〉とある。ところが先の預言者の場合と同様,その神託を受け入れなかったから神の怒りにふれて滅亡した民族は数知れないほどあった。

 そこで,この預言者と使徒とは別のものであるのかという疑問が生ずる。ある解釈者は,預言者というのは彼らの共同社会の人々のもとに伝道者として警告者として神によって派遣されたが,使徒のように共同社会の長ではないと説明する。しかし,『コーラン』の表現から明確に預言者と使徒の性格を区別することはできない。ただムハンマドはしばしば使徒と呼ばれながら,第7章157節,158節にあるように〈使徒にして ummi の預言者〉とか〈ummi の預言者なる使徒〉と呼ばれている。ummi の解釈には問題があって,敬虔なムスリムは「文盲」と解釈し,文盲のムハンマドが神から『コーラン』を啓示されたことは奇蹟に等しいとする。またユダヤ人が異教徒をさす ummot からの借用語で,ムハンマドはユダヤ人以外の,つまりアラブの預言者という意味に解釈する。しかし,イスラームにおいて決定的な信条は,第33章40節にある〈ムハンマドは神の使徒であり,預言者たちの封印〉ということで,神からムハンマドにもたらされた神託は,先に預言者たちにもたらされた神託と同じもので,彼こそ最後の預言者だということである。