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●妖怪 ようかい

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 広義には,人知の及ばない異常な事物や現象を意味するが,狭義には,恒常的に祭祀されていない,人々に恐怖感を与えさらには災厄をもたらすこともある霊的存在もしくは怪異現象の総称。妖異・妖物。その多くがさまざまな事物に姿を変えることができるので,「ばけもの」「おばけ」などとも呼ばれる。妖怪の総称に相当する民俗語は,大別して,東日本に分布する「モー」系(モー・モーモー・モモンガー・モッコ・アモなど),西日本に分布する「ガ」系(ガガマ・ガガモ・ガンゴー・ガゴジ・ガモなど)に分けられる。霊的存在ないしは神秘的力の総称である「もの」の発現としての「もののけ」は,歴史的文献に現れた妖怪の総称の代表と言えるであろう。現代においてもよく知られている妖怪には,鬼をはじめとして,天狗・河童・山姥・一つ目小僧などがあり,やや性格が異なるが憑きものや幽霊もその仲間に加えることができる。 妖怪は,一般的には人間に敵対する恐ろしい存在である。これは,認識の面でも行動の面でも,妖怪というものが人々によって制御されていないことを意味している。妖怪に対処するには,大別して二つの方法がある。一つは,たとえばスサノオのヤマタノオロチ退治の神話や源頼光の酒呑童子退治伝説のように,呪力や武力で威嚇して追い払ったり退治したりするという方法であり,いま一つは,妖怪と一定の関係を結ぶことを通して人間によって制御可能な状態にする,すなわち,妖怪を恒常的もしくは一時的に「神」に祀り上げることにより妖怪の邪悪な側面を封じ込め,さらには幸福をもたらす霊的存在に変化させようとする方法である。たとえば『常陸国風土記』に見える,人々を苦しめる竜蛇の姿をした「夜刀の神」は,その一部は退治されるが,残りは神社を造って祠られることで人々の氏神・守護神となる。民間でも,邪悪な妖怪を小祠に封じ込めたり村落の外にまつり棄てたりすることで,その邪悪な側面を除去しようとした。この二つの方法は,「夜刀の神」の記事に見えるように互いに影響し合っているが,大雑把に言えば,前者の方法は物語世界において見られるものであり,後者の方法は現実世界において見られるものである。

 昔から日本人は,自分たちの生活する世界のなかに幾重にも「結界」つまり他界=非日常世界との境界を設定してきた。たとえば,神の間・納戸・便所・軒・門・神社・寺・辻・橋・峠・村境などは,そうした境界の主要なものであって,これらの境界は物理的・社会的境界のみならず,神や妖怪の棲む他界との境界とも考えられていたので,こうした境界領域に妖怪たちが出没するという傾向が強く認められる。また,出没のときについても同様で,「逢魔が刻」と呼ばれた昼と夜の境の夕方と明け方に妖怪はこの世に出入するとされている。

 妖怪たちのおのおのの姿形や性格は多様性に富んでいるが,一般的特徴として,妖怪のイメージは現実に存在する人間や動物・器物を異様な形に変形したり,これらの事物を合成しつつ変化したりすることで創り出されている。そうしてこうした妖怪生成の思考の背景には,この世に存在する事物のいずれにも霊が宿っており,しかもそれが年老い古びてくると妖怪化するという古代からの観念が存在していた。また生業形態の異なる「山の民」や「川の民」,山伏や巫女などの宗教者に対して抱いた異様なイメージに基づいて造形されたと思われる妖怪が多いのも注目される。

 妖怪は,基本的には邪悪な存在であるが,時と場合によっては神のように人間にとって好ましい行動をすることもある。たとえば山姥や河童や鬼などが,説話や儀礼あるいは現実の生活において主人公を援助したり,人々を祝福したり特定の家を富裕にしたりする。こうした妖怪の両義的性格は,祭祀の有無による神と妖怪の相互変換性,人間の生活態度や信仰心のあり方,来訪してくる神や人との交流の仕方など,さまざまな事柄を反映していると考えられる。

〔参考文献〕柳田国男「妖怪談義」

江馬務『日本妖怪変化史』

阿部主計『妖怪学入門』

阿部正路『日本の妖怪たち』

小松和彦「魔と妖怪」