●ユートピア
ヨーロッパ 英国 AD
イギリス国王ヘンリー8世の大法官を務めたトマス=モアのつくった小説,1516年刊。“ユートピア”はギリシア語の Utopos(どこにもない場所の意)の語で,この書は当時のイギリスが絶対主義興隆期で王権と結んだ囲い込み運動により階級分化が進行,貧民階級が激増している政治社会状況を徹底的に風刺・批判し,逆に空想の孤島に哲人の治める共有共産の無階級理想社会を描いて感銘を与えた。このような考え方は古代からあり,プラトン『国家論』・アウグスチヌス『神の国』・ルネサンス期にモアの他,ベーコン『ニューアトランティス』・カンパネラ『神の国』などがあるし,産業革命期にオーウェン・サン=シモン・フーリエらがある。彼らに共通するのは私有財産制を悪の根源と見,共産制社会を称揚する論調である。マルクスは彼らを,社会の科学的分析をしないまま理想社会を詳細に描いたとして“ユートピア社会主義”(空想的社会主義)と呼んで批判した。社会矛盾の激化する激動期には,当代の社会で満たされない社会的・人間的欲求に対して,現実批判とユートピアを構想することで自己解放と存在証明をつくり得たのである。そしてそのことは人類の保つ英知の証明と考えることができる。