●物と事 ものとこと
AD
日常的な語法のなかではとくに区別されないことも多い。しかし厳密には対照的な概念である。一般に,物がわれわれの感官知覚の対象・物体であるのに対して,事はこの物のもつ意味であり状態である。物が比較的に持続的なあり方であるのに対して,事は流動的・一回的である。物がいわば実体的であるのに対して,事は現象的であると見てもよい。認識あるいは表現の観点からは,われわれが知り,また述べるのは物“について”であり,そこで知られ,述べられているのが事である。したがって,物はある程度の共通性・客観性をもち中立的であるが,物の記述としての事は時間的・空間的および主観的状況に応じて可変的である。物と事の対応関係,物と事の区別およびその評価は,世界観的立場によってさまざまである。思想史的に,近代から現代への変化を実体主義から機能主義への移行過程とする見方は,物中心的な考え方から事中心的な考え方への変化に対応している。