●木器 もっき
AD
広く解釈すると石器・土器に対応することばで木製品一般をさし,狭くは木製品のうち,おもに器具・道具類を便宜的にさす。人類の生活文化史上木製品の果たしてきた役割には大なるものがあるが,木は腐朽しやすいため遺物として残りにくく,石器などに比べるときわめて発見例は少ない。近年わが国でも,低湿地遺跡の調査が盛んに行われるようになってきたので,古代の木器もしだいに私たちの前に姿をみせはじめている。縄文前期の千葉県加茂の丸木舟,青森県是川・亀ケ岡,埼玉県真福寺の縄文晩期の容器や弓をはじめとして,このほかにもこの時代に木製品のあったことを示す資料として,舟・容器・装飾具などが出土している。弥生時代になると,鉄製工具の普及で各種の木器がつくられるようになり,鍬・鋤・田下駄などの農耕具や,鉢・椀・皿などの容器・武具・機織具など多種多様な木器が日常生活や生産に用いられるようになった。製作技術からみると,最初は1本の木をくりぬいてつくられ,製作用具も石斧などの石器のみであったものが,やがて回転台や鉄器具の発明によって大量にいろいろな木器が生産されるようになり,歴史時代に入ると,板を組み合わせてつくる曲物も生まれ,木器は私たちの生活になくてはならぬものとなった。ここでは木器は,木製の器ということなので,容器として最も利用されている食生活の分野の木器をいくつか紹介しておく。食文化に活用している木器は,1例をあげても椀・櫃(ヒツ)・行器(ホカイ)・重箱・樽・桶・柄杓(ヒシャク)・折櫃(オリビツ)・破籠(ワリゴ)・食籠(ジキロウ)など多種多彩である。【椀】飲食用具のなかでなくてはならないもので,飯や汁・おかずなどを盛りつける容器で,この木地づくりに活躍したのが木地師である。平安期から木地の上に漆を塗った漆器のものが用いられるようになり,今でも,日常に用いられたもののもつ実用の美を見せてくれる椀も残っている。椀には中に入れる食物によって「飯椀」「汁椀」「ひら」「つぼ」「こしだか」などがあり,これらが5個1組で1膳用として用いられるもので,今でも村の旧家の冠婚葬祭用に本膳一式として生き残っている。
【桶・樽】桶は水・酒などの液体を入れる木製円筒形の容器で,古くは檜の薄板を曲げ,桜の皮でとじ底板をつけた曲物(マゲモノ)であったが,中世末期以降,板を円筒に並べ底板をつけたタガシメの桶が生まれ,桶の種類も大桶・風呂桶・米とぎ桶・洗い桶・手桶・半切り桶・たらいなど多種多様となった。樽は桶に鏡蓋をしたもので,中世末期から液体運搬貯蔵のため使用されはじめ,近世には盛んに使われるようになった。種類は用途によって酒樽・醤油樽・味噌樽・漬物樽などさまざまで,祝儀用にはツノダル1対が用いられる。
【重箱】おもにハレの日の携行用容器として用いられるもので,箱を二重・三重・五重と重ね,中に食物を入れておく容器,祝儀用の赤飯を入れるものとして今でも活用している。
【行器】食物運搬用の容器で,角形・丸形木鉢・曲物・結桶(ユイオケ)などいろいろあり,上等なものになると内側が赤,外側が黒漆で蒔絵(マキエ)をほどこしたり,家紋を書いたりしたものもある。もともとは神霊を入れてもち歩いたものが,食物専用の運搬容器になったという。
【折櫃・破籠・食籠】いずれも食物を入れるもので,おもに饗宴や外出・旅行時の弁当入れや贈答用の容器として用いられた。折櫃は,檜や杉の片木(ヘギ)を折り曲げてつくった箱で,奈良時代にすでに使用されている。年始や節会(セチエ)などの宴会のとき,飯や肴・餅・菓子などを入れて客に出したり,ちょっとした来客や間食の菓子を盛ったりするのに使用された。破籠も古くから使われており,江戸時代までは盛んに使われた。片木を円形に曲げてつくった容器で,中に仕切りがある。食籠も使い捨てでなく,什物として大切に使われた食物を入れる容器で,螺鈿(ラデン)・蒔絵などをほどこした豪華なものが多く,茶会の座敷飾りとしても珍重された。