●民謡 みんよう
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民衆の間で歌い継がれてきた歌。民俗音楽のなかの主要な部分としての folk song に対する訳語として定着した語であり,それまでは,俚謡(さとうた)・風俗(ふぞく)・鄙歌(ひなうた)などの語が民衆の歌謡の意味で用いられていた。民謡の伝承と演唱には,世界的に共通する特徴としてまず楽譜を使わないことがある。このことは職業音楽家による作曲がないことを意味する。ある旋律素材は,伝承すなわち一回ごとの演唱を通して意識的または無意識的に改変されかつ保存されるのである。言い換えれば,演唱者は個々の演唱に花をもたせるために,即興的なフレーズを付け加えたり歌詞を改変したりする。しかし,基本となる音楽構造は伝統的に保持している場合が多い。また,聴き手は,かけ声・はなしことば・合いの手などや舞踊によって演唱に積極的に関与し民謡の伝統のダイナミックな展開に寄与する。演唱の場は,儀礼・祭礼・年中行事など地域社会の生活パターンと密接に結びついている。以上の諸特徴は,日本の民謡についても言えることであるが,現在では,民謡が民衆の生活の場を離れ,稽古事としてまた専門的歌手がステージで歌う鑑賞用レパートリーとして,一つの独立した音楽ジャンルと見なされる傾向が強まってきている。
日本民謡の全体は,歌われる場や目的によって分類されている。労作歌は,労働を効率よく行う目的で歌われる。各地に伝承される田植歌・綿打歌・米つき歌などは,労働のリズムを模倣した拍節をもっており,長持歌・牛追歌などは労働に対する休養として歌われる。また灘酒屋歌のように作業工程を歌詞に織りこんだものもここに分類される。祝儀歌は祝歌とも言われ,年中行事・慶事に際して歌われる。はれやかな歌詞内容をもつ歌で,嫁入り歌・家移り歌・酒盛り歌などがある。また,歌詞内容がそれにふさわしいものであれば,労作歌であっても祝儀歌に転用される場合が少なくない。わらべうたは,子どもの遊びにおいて伝統的に継承されてきた民謡である。遊び歌以外,自然や動・植物を歌った歌,年中行事の歌がある。子守歌は,わらべうたとは別のもので,大人や子守娘が歌う一種の労作歌と言える。以上に挙げた分類は,しばしばおこる転用や,座敷歌として酒宴に興を添えるための歌として定着させられたことなどのために,実際にはかなり錯綜している。
音楽様式から見れば,日本の民謡は八木節様式と追分様式とに類別される。前者は八木節に代表され,明確な拍節をもち音域が狭く単純な旋律・有節形式で単純な動機が繰り返されるなどの特徴をもつもので,地つき歌・網引き歌などの労作歌や盆踊り歌などがこれに当たる。後者は江差追分などのように,拍子が存在しない自由リズム,メリスマ的な歌い方がなされ音域は広いなどの特徴をもち,馬子歌がこの様式に含まれる。追分様式の曲には,歌い手に高度な技巧が必要とされるのに対し,八木節様式の曲は,しばしば集団で歌われることもある。民謡の個々の曲名には,木曽節・じょんがら節などのように“節”をつける場合が多い。また,河内音頭や秋田音頭などの“音頭”は元来,“音頭をとる”という慣用句が示すように,最初の一節を一人が歌って他の複数の歌い手を先導することを意味し,その形式の歌が何々音頭のように命名された。他に木更津甚句などのように“甚句”をつける例があるが,この語の由来は不明である。
現在の民謡の直接の起源は,7・7・7・5調の普及した近世初期に求められる。その伝承は,流行現象に支えられている側面がある。すなわち,都会地で一たび流行したものが人々の移動に伴って地方にまで伝わり,そこで保存されある程度の期間を経て,再び中央の都会へ紹介されるというプロセスをとる。そしてその伝播の過程では,新しい歌詞をつけたり旋律やリズムを部分的に変更したりするので,その結果,異なる地方で類似の旋律をもった歌がしばしば見出されることになる。