●民俗分類 みんぞくぶんるい
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今日,民俗分類 folk classification・民俗分類学 folk taxonomy と称される分野は,1960年代になってにわかに注目されるようになった認識人類学の研究主題の一つである。認識人類学は,異なった地域に生活する民族がどのように自分の文化を体系づけ,これを活用しているのかを“発見すること”に注目する。たとえば人々は,物事・出来事・行動・感情などの実際の現象を認識し体系化することに対して独特なシステムを保持している。そこでこの学問が研究しようとするのは,これらの実際上の客観的現象そのものではなく,人々の精神のなかでそれらを体系づけようとする主観的方法なのである。すなわち人々の実際上の現象に対する認識の体系こそ異文化理解にとって重要であり,文化とは認識の体系そのものであると称してよい。異文化理解にとって大切なのは,このようにその民族の実際上の現象に対する意味づけと人々による現象の体系化である。異なる文化にある者同士は,現象に対する認識も異なればその体系化も違ってくる。たとえば母の兄弟の息子と母の姉妹の息子は,日本人にとっては同じ“イトコ”でしかないが,コヤ族にとって両種の関係の区別は極めて重要であり,名称上の区別が存在する。このように,同じ現象に対して文化間で認識や分類が異なるだけではなく,同じ文化内でも同一現象に対して異なった体系化がある。所与の民族の現象認識をどうやって理解するかの手掛かりの一つとして,民俗分類が問題に上がるのは,こうした所与の民族文化の体系化の方法を知るためである。たとえば,この種の研究の先駆者として知られるアメリカ人類学者ハロルド=コンクリン(1926〜)は,フィリピンのハヌノー族が植物の部位や特性を記述する用語を150ももっており,植物の種類を最下位の分類レベルで1,800もの識別可能な分類単位に分けていることを“発見”している。西欧流の植物分類学では,1,300以下にしかならない分類単位と比べても,その分類基準が異なるにしてもハヌノー族の植物分類に対する体系化がいかに精緻で豊富であるかが理解できよう。こうした先駆的業績に刺激を受けて,世界各地に生活している民族の実際上の現象を分類するのに用いられる特定のカテゴリーやカテゴリー間の関係,およびそれらの体系化の方法や認識体系が明らかになってくると,諸民族の民俗分類体係間の異同をどのように比較するか,その普遍的基準や普遍化のための分析手続き・用語などに関する問題が生ずるに至った。この問題に取り組み,独特の理論を構築したのが,アメリカの人類学者ブレント=バーリン(1936〜)であった。バーリンは物を分類するために用いられる語彙に注目し,対象物を指示し得る単一のカテゴリーである単一語彙素,指示し得る一つ以上のカテゴリーを含む複合的語彙素,意味の単位として分解不可能なもの・分解可能なものなどの基準を設け,諸民族の民俗分類における階層的特質を明らかにした。たとえば,目本人の民俗分類におけるマツとかスギなどは,これ以上のカテゴリーはなく分解不可能だが,クロマツ・アカマツなどは二つのカテゴリーを含み,意味の単位も分解可能な複合的語彙素である。この民俗分類は,あたかも生物分類学でいう界・門・綱…などのような分類の階層をもっている。こうして“発見”された各民族の民俗分類法は,科学界における分類学にも似た認識体系をもっていることが判明するようになる。ただ科学的分類学と相違する点は,直接的関心のある現象に関してその分類が極めて精緻である点である。こうして各民族独自の民俗分類=世界分類の発見によって,民族誌的研究もまた新たな研究段階に到達することができるようになった。〔参考文献〕合田濤編『認識人類学』(現代のエスプリ別冊)1982,至文堂
松井健『自然認識の人類学』1983,どうぶつ社
綾部恒雄編『文化人類学15の理論』1984,中公新書