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●民俗誌 みんぞくし

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 民俗学的方法でもって,各地域の歴史・文化を記したもの。民族誌とアナロジーの関係にあり,民族学と民俗学の差違を踏まえると理解しやすい。民族学は,主として未開地域の文化・宗教・生活を調査し比較検討して,文化の生成や歴史,伝播の道すじを明らかにする。その比較に際して,個々の民族の現在の文化をトータルに記述したものが,民族誌(エスノグラフィー)である。人類学の一分野であり,現地調査でもって諸民族の社会組織や生活様式の記述を目的とする。自然環境に始まり,衣食住・経済・政治・社会・宗教・芸術・神話・口承文芸などが記載される。その民族がどのような考えをもち,どのような行動様式をとっているかが示され,民族学の資料となるのである。このエスノグラフィーに対して,民俗史の訳語を当てる場合もある。つまり,民族学の下層科学である民族誌はまた,それぞれの民族にとっての民俗であるとも言えるからである。

【日本の民俗誌】今日,日本で行われている民俗誌は,民族誌を一層小地域に当てはめたものと考えられる。日本の民俗を明らかにするためには,各地域ごとの民俗誌が成立すること,そのことによる各地の比較が必要とされてきた。一つの理念を先行させるのではなく地域別に採集調査を行い,そのうえで民俗の全貌を体系化しようとする。近年各自治体によって,あるいは地域の新聞社などによって郷土史の編さんが行われているが,その郷土史に含まれている民俗を独立させてしかも地方の民俗学者が中心になってつくられるようになった。第二次世界大戦前においても,壱岐島・天草島などの民俗誌が作成されたが,今日の特徴はそれが一層小区域において行われ,ムラとか一村落の民俗が明らかにされつつある。祭りの記録・儀礼や風習の記述もあれば,発見された古文書をもとにムラの歴史が語られる場合もある。

 明確に民俗誌を志した大規模なものとしては,財団法人民俗学研究所の手に成る事業がある。全100巻の意図で出発したが中断されている。刊行された代表的なものは,佐渡の北小浦・越前石徹白・三河日間賀島・会津桧枝岐・常陸高岡村・美濃徳山村・信濃黒河内などである。このような地域に密着した作業によって,民俗学の柱ともいうべき民間伝承が明らかになり,それぞれの地域における格差も判明してくる。この場合の民間伝承とは,慣行となった土地での生活様式や道具・技術,それに思考様式の一切を含んでいる。民間伝承は世代から世代へと受け継がれていくが,近代以降は教育制度の確立によって失われつつある。しかしなお,今日の地域文化の基層にはかつての規範が生き残っており,「常民」のもつ文化が隠されている。ただ民間伝承は,文献記録と違って,ある一地方の資料だけでは一つの事実の報告に留まる。そのために各地の民俗誌が必要となる。各地で採集した資料を分類整理し,地域的に配列しなおし比較する。この比較研究は,「重出立証法」と呼ばれ,観察と採集から各歴史段階での生活文化を探り出す。生活の横断面の事象は歴史事象の縦断面に似ている。こうして民俗の歴史に迫ることが可能である。多くの民俗誌ができれば,ある事象の分布を調べ,その分布からその習俗の本質を成すものが特殊地域的なものかどうかが判明する。資料の数が広く分布していない場合は全国的な習俗を説明できない。なぜなら,ある習俗が往々にして地方的に変化してしまっていることがあるからである。これら習俗の分布を地国の上に配列する方法は,“カルトグラフィー”と言う。柳田国男が「方言周圏説」を出したのはこの方法であり,近年では和歌森太郎が『津軽の民話』など9巻の書で広く各地の民俗誌をつくり,同類同種の民俗の異同を明らかにした。一般的な民俗誌は,その土地の風土・歴史・経済・社会形態・交通・衣食住・年中行事・儀礼・祭祀・民俗芸能などを記述しているが,記述者の方法・個性によって多様である。