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●民具 みんぐ

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 民衆が日常生活の必要から技術的に作り出し使用してきた,身辺の生活用具全般の総称。この用語をはじめて提唱したのは日本常民文化研究所(旧称アチック=ミューゼアム)創設者渋沢敬三で,その時期はだいたい1933年(昭和8)ころである。民具という用語は広い概念として用いられており,精神文化(民俗)に対する物質文化(民具)として民俗学の二部門を構成するものとする考え方から出ている。つまり,近代的社会における機械文明の影響を被らない民族的な,そして伝統的な生活用具をさす。衣食住に関するもの,生産・生業に関するものを初め,信仰や年中行事に関するもの・社会制度に関するものまで,人間生活のあらゆる分野にわたるものを含んでいる。いわゆる土俗品・民俗品と呼ばれるものや,有形民俗資料と呼ばれるものも民具の中に含まれる。

 しかし,このような広い範囲のものでなく,生産・衣食住・運搬関係のものだけを民具として取り扱うべきであるとする意見もある。また,共同体的な生活文化は,貴族や武士層にも見られるものであるから,民具を常民層に限らず,農民や漁民はもちろん,商人・工人・士族・貴族などを含めたあらゆる社会層,生業・職業集団の生活文化としてのすべての用具・製作物を含ませる立場を主張する学者もある。

 アチック=ミューゼアムで作成した『民具蒐集調査要目』によると,民具は次の五つに分類される。[1]衣食住に関するもの―家具・灯火用具・調理用具・飲食用具,食料および嗜好品・服物・はき物・装身具・出産育児用具・衛生保健用具,[2]生業に関するもの―農具・山樵用具・狩猟用具・漁労用具・紡織色染・畜産用具・交易用具・その他,[3]通信・運搬に関するもの―運搬具・行旅具・報知具,[4]団体生活に関するもの―災害予防具・若者宿の用具・堂椀・地割用具・共同労働具,[5]儀礼に関するもの―誕生から成年式(元服)まで,婚姻・厄よけ・年祝い・葬式・年忌,[6]信仰・行事に関するもの―偶像・幣帛(へいはく)類・祭具および供物・楽器・仮面・呪具・卜占具・祈願品,[7]娯楽・遊戯に関するもの,[8]玩具・縁起物など。

 以上のように,生活文化の全分野にわたって,民衆が日常生活の必要から製作・使用してきた伝承的な器具・造型物が包含されている。これらの民具は他の民俗資料と同様に基盤的な伝統文化の特質を端的に示すもので,民族文化の本質とその変遷の理解の上で欠くことのできない具体的な資料であると言える。したがって実物の単なる収集にとどまらず,収集に際してその名称・製作・材料・使用・分布・由来・俗信などについて調査・記録されるならば資料としての価値はより高いものとなる。従来,ともすれば上流貴族の生活や芸術・文化だけが尊重され,一般民衆の生活や生活文化の意義が等閑視されがちなために,民具は捨てて顧みられない傾向にあった。明治以来の欧米文化の流入による生活様式の変化や近代工業化の進展による大量生産化,とくに第二次世界大戦による被害と戦後の窮乏による基盤的な生活文化の急速な変革は,ますます民具の隠滅を急激化させている。したがって,各地に散在する残された民具を早急にかつ大規模に調査・記録し,収集・保存することが望まれている。民具は美術工芸品と違って実用品であったために,酷使によって破棄され,便利によって改廃され,使い捨てにされてきたのである。

 なお,文化財保護委員会の「民俗資料の指定基準」では,次の12項目に分類している。[1]衣食住に関するもの,[2]生産・生業に関するもの[3]通信・交通・運輸に関するもの,[4]交換・交易に関するもの,[5]社会制度に関するもの,[6]言語表現に関するもの,[7]信仰に関するもの,[8]民間知識・技術・教育に関するもの,[9]民間芸術・娯楽に関するもの,[10]人の一生に関するもの,[11]年中行事に関するもの,[12]その他。