●民間医療 みんかんいりょう
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医師による医療が受けられなかった過去の時代や僻地にあっては,呪術・祈願祈祷・採取した薬物服用・鍼灸・温泉などの信仰や経験による療法より他はなかったのであり,これらを総称して民間医療と言う。【文化と医療】文化を表層・中層・基層の三層に分けると,基層文化に民間医療(呪術・祈願祈祷に一応限定)を,中層に鍼灸・民間薬を位置させることができる。医療形態の推移は本能医学に始まり,民間医療からしだいに実験医療へと移り,実験医学は時代とともにその領域を広げ民間医療と交代した。庶民の観念における病因は療法・予防に通じ,病理観をもとにした民間医療体系がほぼ成立する。
【民間医療の種類】[1]神仏祈願−社寺に参詣して病気平癒を祈願する。各種の病気に対し,それぞれ平癒が叶えられる神仏に対して耳・脚・歯痛・百日咳・腫れ物の神様などに願かけをする。これらは個人祈願であるが,ムラ全体の利害のための共同祈願がある。埼玉県では,祭事の後,子供が夕方川まで疫病送りをし,その後注連(しめ)縄を張り疫病神がもどって来ないようフセギの草鞋を吊してくる。目的を同じくする任意の集団において力を合わせて祈願するのを合力祈願と言う。切実な祈願では,一,二度では叶えてもらえないというので百度詣り,千垢離を行う累積祈願がある。また三社・五社・七社・千社詣などの巡拝もある。祈願の手段には,社寺への参拝,ある期間社寺に泊って祈願する参籠,祈願が叶えられれば神仏の好む物を進上する奉納,病魔を払い清める祓・禊がある。[2]宗教者祈祷・呪術−古くからの祈祷師,神職や神道新派の布教師らの神道系,仏教諸宗の僧侶と修験者らの仏教系,講集団の先達・布教師,それに巫女系の占・祈祷師がいる。祈祷師の例を挙げると,稲荷下のオガミヤは呪文を唱えると稲荷が乗り移って願を聞き,後の問答で生霊(いきりょう)が障っているから西の方角を清めたら病気が治ると告げる(和歌山県)。青森県のイタコは病因を占い,狐・蛇がついている祟りと判断し祈祷や護符で治す。鹿児島県種子島・屋久島の巫女はモノシリと言い,長病いや牛馬の病いに対し,祭文を唱え神がかりして病因を判断し,死霊・山の神・水神の祟りや憑きを祓う。[3]民間呪術−まじないによる医療で,病魔を送り出す「鎮送」,足の付根の腫れたときいろりの灰をならして足型をつけ,その土ふまず部に灸をすえる「代用」,子どもの歯ぎしりを治すのに木の枝のすれ合うのを矯正する「感染」,家へ疫病が入るのを防ぐため〈我家は鎮西八郎為朝の家なり〉と貼紙する「対抗」など種々ある。[4]民間薬−上流社会に行われた漢方がしだいに民間に入りその薬効も経験の上伝えられた。単剤で用いる薬物には,植物(草根木皮)・動物・鉱物とがある。植物性薬物は陰干したものの煎汁を内服したり,生汁を傷につけたり飲んだりする。動物性薬物は焼いて内服するものが多く,全体から見て鉱物性薬物の治療は少ない。[5]伝統的物理療法−按摩は,揉み・擦り・敲いて血行・体調を整え,捻挫・筋違い・そらうで・肩凝り・腰痛・神経痛・リューマチなどに効く。接骨は,骨折・捻挫・脱臼を治す。鍼術(しんじゅつ)は高度な技術がいる。多く管鍼法を用い皮肉に刺激を与えて変調を矯正する。灸術には大小の灸があり,モグサをツボ(灸穴)に置き線香で点火する。この治療は一般に二,三週間続ける。効能は頭痛・肩凝り・神経痛・喘息・胃腸病・腰痛・腫れ物など広範囲にわたる。温泉療法の効能は万能と言うほどあるが,泉質の鉄泉・塩類泉・炭酸泉・硫黄泉の種別により効能が分けられる。ほかに石風呂・薬湯等もある。なお牛・馬・豚など家畜の病いについても民間医療の分野に含ませている場合もある。
〔参考文献〕長岡博男『加賀能登の生活と民俗』1975,慶友社
今村充夫『日本の民間医療』1983,弘文堂
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