●水無瀬川 みなせがわ
アジア 日本 AD
川に水流の無い理由を説明する伝説。東京都八王子市の水無瀬川は3丁にわたり水が無い。昔弘法大師が水を乞うて断わられ,裏の流れで水を飲みながら杖で川を突き水流を封じた。以後その付近は水が地下を潜って流れるようになったという。岩手県紫波郡紫波町(旧佐比内村)の水無し川もまた,家の女が弘法大師に多忙を理由に水を与えず,大師が川を錫杖(しゃくじょう)で突き水量を減じたという。福井県武生市(旧今立郡味真野村),大分県大分市(旧大分郡東植田村・瀧尾村),同県大野郡野津町(旧川登村)にもこのような弘法大師の呪詛奇跡譚がある。この話は「弘法清水」の伝説とも関連が深く,また大師が大根を乞うたという「大根川」の伝承ともよく似ている。これらは巡幸する神に,聖なる水による神饌を捧げた古代信仰に由来するもので,おそらくは弘法大師を祖とする密教の僧徒たちによってひろめられたものであろう。岐阜県大野郡の飛騨一宮の話もこれらによく似ている。ここでは明神が法楽の声の妨げとなることを憎み,社の付近だけ水を底へ移したとも,川の掘削(くっさく)をアジメという魚に頼んだとも伝えられている。〔参考文献〕柳田国男「武蔵野と水」「豊前と伝説」『木思石語』1942,(定本5)