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●マーブル紙 マーブルし

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 おもに本の装幀において,表紙や表紙の見返し紙として使用される赤・青・黄など鮮やかな色彩の染色を施した紙。わが国ではその染色方法(マーブル染)を用いて不正防止のために帳簿の小口装飾が行われることが多く,装幀用のマーブル紙はあまり普及していない。起源とその伝播についてはまだ明らかでない。9世紀ころに日本で考案された墨流し染の技法が中国に渡り,中近東を通じてヨーロッパに伝わったといわれるが,信憑性に乏しい。あるいは,16世紀ころに,イランの工人ミール=ムハンマド=ターヘルがインドにおいて初めてマーブル紙を制作したともいわれているが,真偽のほどは定かでない。 染色の方法は,日本古来の墨流し染によく似ているが,大きな違いがある。墨流し染が顔料を純粋な水の上に垂らして,顔料の自然の流れを水面より写し取ることに対して,マーブル染は色を落すべき水にある種の糊を混ぜて水面における顔料の動きを抑制している。その結果,マーブル紙の制作者は,細い棒や櫛を用いて,あたかも画家がカンバスに向かって筆をはしらせるように水面に拡散した顔料を変幻自在に変化させることができる。羽衣,孔雀,ブーケ,ゼブラなどと呼ばれるマーブル紙は職人たちの工夫の所産である。水に混合する糊は制作者によって異なるが,わが国では,コンニャク粉が使われている。ヨーロッパでは,北海や北大西洋沿岸で採集されるカラジーン=モスあるいはアイリッシュ=モスと呼ばれるツノマタに似た成分をもつ海草や中近東原産の樹脂・トラガカント=ゴムが利用されている。マーブル紙の出来不出来は,水に糊料を加えた膠液の濃度にかかわっているので,制作者は濃度の調整に非常な苦心をする。また,水面に描く模様によっても糊の種類や濃度を変えなければならない。布の洗い張りに使われる布海苔を用いてもマーブル紙をつくることが可能であるが,あまり好結果を期待できないといわれている。顔料については,各制作者の企業秘密であり,詳しいことはわかっていない。よくいわれることは,レーキ顔料を用いるということであるが,それ以外の顔料も展色剤の工夫によって使用されることがある。たとえばトルコでは,インディゴ=ブルーやイエロー=オーカー,ランプ=ブラックなどを使っている。制作者たちはマーブル染に適した顔料を経験によって熟知しており,それらに浮力を与える展色剤(アラビアゴムなど)や水面でそれが一瞬のうちにひろがるようにする拡散剤(牛胆など)を加えて用いている。羽衣マーブルなど櫛で模様を描くものは水性に顔料が調合されるが,貝マーブルのように,ある種の油が加えられた顔料も用いられる場合がある。

 イギリスの製本工房であるコッカレル工房では,カラジーン=モスを用いて冷たさを感じさせるほど端正かつ規則的なパターンをもつ独特の模様を考案し,一見してコッカレル工房制作のマーブル紙であることがわかるようになっており,同一デザインの連続性はイギリス人の律義さを感じさせる。フランスでは,ミシェル=デュヴァルがトラガカント=ゴムにより伝統的な方法で,華やかで上品な美しい羽衣模様のマーブル紙をつくっている。以上,コッカレル工房とデュヴァール氏制作のマーブル紙が現在装幀用として使われているものの双璧である。一方,トルコでは装幀のためでなく,料紙や書家の書蹟の表装あるいは純粋に鑑賞用としてマーブル紙がつくられている。そこでは,櫛を用いた羽衣模様だけではなく,より具象的な模様,チューリップ・ヒヤシンス・バラなどが水面から見事に写し取られている。トルコでは,制作者がかなり活動しているが,彼らは古来よりの伝統をかたくなに守って制作に従事している。

 装幀におけるマーブル紙や本の小口装飾としてのマーブル染は,単に書物を飾りたてるための趣味的なものとして考えられがちであるが,マーブル染を施した小口はほこりなどがつきにくく,またマーブル染をする際に明礬水が紙面に塗られるので,虫害もかなり防ぐことができるという利点のあることにも注目すべきである。

〔参考文献〕Phoebe Jane Easton:Marbling A History and a Bibliography, Dawson’s bookshop, Los Angeles. 1983

M. Ugur Derman:Turk Sanatinda Ebru, AK Yayinlari Turk Susleme Sanatlari Serisi:5 Istanbul, 1977

J. J. プレーガー庄司浅水・赤坂桂棹訳『最新製本術』1931,ブックドム社

John J. Pleger:Bookbinding and its Auxiliary Branches Chicago, 1914.