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本 ほん

【明治初期の出版書】明治維新後,西欧文化の吸収が盛んに行われたが,その傾向は本の世界にも顕著に現れるようになった。たとえば文学書の翻訳ではデフォーの『ロビンソン=クルーソー』(1872)初め,『イソップ物語』(1873),『アラビアン・ナイト』(1875)ヴェルヌの『八十日間世界一周』(1878),リットンの『ポンペイ最後の日』(1879),スウィフトの『ガリバー旅行記』(1880),バニヤンの『天路歴程』(1880),シラーの『ウィリアム=テル』(1882),シェイクスピアの『ベニスの商人』(1883),プーシキンの『大尉の娘』(1883),ゲーテの『狐の裁判』(1884),シェイクスピアの『ジュリアス=シーザー』(1884),トルストイの『戦争と平和』(1886)など相次いで刊行された。そうしたなかで,わが国の出版界も1887年(明治20)前後を境にして,他の産業と同様資本主義的な営利を目的とした企業として行われるようになり,博文館(1887年6月創業)初め,民友社・春陽堂・冨山房・三省堂・中央公論社・新潮社・実業之日本社・講談社などがそれぞれうぶ声をあげ,坪内逍遥の『小説神髄』9冊(1885〜86),二葉亭四迷の『浮雲』3編(1887〜88),北村透谷の『楚囚之詩』(1889),森鴎外の『舞姫』(1890),幸田露伴の『五重塔』(1892),樋口一葉の『たけくらべ』(1895),泉鏡花の『照葉狂言』(1895),島崎藤村の『藤村詩集』(1897),尾崎紅葉の『金色夜叉』5冊(1898〜1904),徳富蘆花の『自然と人生』(1900),国木田独歩の『武蔵野』(1901),永井荷風の『野心』(1902),夏目漱石の『吾輩ハ猫デアル』3巻(1905〜06),田山花袋の『田舎教師』(1909),長塚節の『土』(1910),西田幾多郎の『善の研究』(1911),厨川白村の『近代文学十講』(1912)などの名作が次々と生まれた。

【大正時代の出版界】大正期に発生した第一次世界大戦(1914年7月〜1918年11月)は3,000万人近い死傷者を出して終結した。その間,わが国では一部に戦争成金を産んだが,多くはインフレに悩まされ,やがてデモクラシーの思想がおこり,その方面の本が多数刊行された。そうしたなかで岩波書店(1913),主婦之友社(1917),平凡社(1914),改造社(1919),小学館(1922),文藝春秋(1922)などが相次いで創業した。また明治末期から大正期にかけ,大阪の立川文明堂から「立川文庫」が刊行された。子供むきの講談本で200編内外に及び,ラジオもテレビもないそのころ少年時代を過ごした人なら,必ずお目にかかっているはずである。ほぼ同じころ,自ら“日本のレクラム文庫”を称し,東西古典の抄訳による「アカギ叢書」(定価10銭)が創刊された。これらはのちの「岩波文庫」その他の文庫につながるものである。1923年(大正12)9月関東地方を襲った大震火災は,東京を中心とした造本・出版文化を一瞬にして壊滅してしまった。

【大正時代の本】そうしたなかで大正時代には,中里介山の『大菩薩峠』(1913〜35),阿部次郎の『三太郎の日記』(1914),芥川龍之介の『羅生門』(1915),倉田百三の『出家とその弟子』(1916〜17),有島武郎の『生れ出づる悩み』(1918),島田清次郎の『地上』4部作(1919〜22),菊池寛の『恩讐の彼方へ』(1919),賀川豊彦の『死線を越えて』3巻(1920〜24),志賀直哉の『暗夜行路』(1921〜37),谷崎潤一郎の『愛すればこそ』(1921),久米正雄の『破船』(1922),白井喬二の『富士に立つ影』(1924〜27),大仏次郎の『鞍馬天狗』(1924),川端康成の『伊豆の踊子』(1926),吉川英治の『鳴門秘帖』(1926〜27)などの名作・力作が生まれた。

【昭和時代の本】大正の末期改造社が発刊した「現代日本文学全集」38巻(のちに続刊25巻を加え合計63巻)は並製(厚表紙装)定価1円(そこから円本の名が出た),予約購読者が50万人にも達し,大成功をおさめた。これに刺激されて発刊された新潮社の「世界文学全集」38巻(のちに57巻となる)は58万人の読者を獲得,これがきっかけとなり,昭和初頭の出版界は未曽有の円本合戦となり,一時はその数200種以上にものぼり,大盛況を呈したが,類似の企画も続出し共倒れとなり,破産する出版社も多数現れ,悲哀の裡に終末をみた。しかし昭和初期の出版・造本・読書界に円本の与えた影響・貢献はけっして少なしとしない。そうしたなかで,昭和初期の山東出兵は済南事変を生み,日本軍の全満州占領は北支事変につながり,日中戦争に拡大し,やがて太平洋戦争へとエスカレートする。そして1945年8月15日270万余の死者を出し,3年8カ月ぶりでわが方の無条件降伏で戦争終結となる。戦災による出版社・書店・古書店の被害はおよそ2,000軒,紙・印刷・製本など造本関係の被害は4,000社を超え,大学・図書館・研究所・個人の蔵書の損害は関東大震災の幾百千倍にも達した。このように焦土と化したなかから不死鳥のように立ち上がった日本は,ほぼ40年をへて GNP 世界第2位を誇る経済大国となり,先進工業国の一員となり,出版点数も毎年3万点を超え,世界有数の出版国によみがえった。いま,昭和60年間に刊行されたもののなかから,話題になったものを年代順に列挙すると,1927年(昭和2)は芥川龍之介の『河童』,藤森成吉の『何が彼女をそうさせたか』,九条武子の『無憂華』,1928年は鶴見祐輔の『英雄待望論』,1929年はレマルク著・秦豊吉訳『西部戦線異常なし』(中央公論社の処女出版),谷譲次の『踊る地平線』,谷孫六の『岡辰押切帳』,1930年は林芙美子の『放浪記』,細田民樹の『真理の春』,1931年は平凡社の『世界大百科事典』28巻,1932年は大槻文彦の『大言海』4巻,1934年は徳富蘇峰の『近世日本国民史』50巻,冨山房の『国民百科大辞典』15巻,武田鱗太郎の『銀座八丁』,横光利一の『紋章』,谷口雅春の『生命の実相』,1935年は新村出の『辞苑』,尾崎士郎の『人生劇場』,石川達三の『蒼氓』,島崎藤村の『夜明け前』2巻,矢田挿雲の『太閤記』,パール=バック著・新居格訳『大地』,ローレンス著・伊藤整訳『チャタレイ夫人の恋人』,1936年は吉川英治の『宮本武蔵』6巻,森田たまの『もめん随筆』,北条民雄の『いのちの初夜』,1937年は石坂洋二郎の『若い人』,島木健作の『生活の探究』,豊田正子の『綴方教室』,川端康成の『雪国』,1938年は石川達三の『結婚の生態』,火野葦平の兵隊3部作(『麦と兵隊』『土と兵隊』『花と兵隊』),中河与一の『天の夕顔』,キュリー著・河盛好蔵訳『キュリー夫人伝』,ミッチェル著・大久保康雄訳『風と共に去りぬ』,岸田国士の『暖流』,小川正子の『小島の春』,1939年は谷崎潤一郎の『源氏物語』,1940年は三木清の『哲学入門』,1941年は高村光太郎の『智恵子抄』,1942年は丹羽文雄の『海戦』,岩田豊雄の『海軍』,ヒトラー著・真鍋良一訳『わが闘争』2巻,徳田秋声の『縮図』,1943年は谷崎潤一郎の『細雪』,友松円諦の『法句経講義』,高神覚昇の『般若心経講義』などがあり,さらに戦後になってから1946年は森正蔵の『旋風二十年』2巻,尾崎秀実の『愛情はふる星のごとく』,1948年は太宰治の『斜陽』,永井隆の『この子を残して』,1949年は永井隆の『長崎の鐘』,1950年は辻政信の『潜行三千里』,東大出版部の『きけわだつみのこえ』,1951年は笠信太郎の『ものの見方について』,波多野勤子の『少年期』,1952年はマーク=ゲイン著・本上威夫訳『ニッポン日記』2巻,1953年はアンネ=フランク著・皆藤幸蔵訳『光ほのかに』,1954年はローゼンバーグ夫妻著・山田晃訳『愛は死を越えて』,佐藤弘人の『はだか随筆』,1956年は石原慎太郎の『太陽の季節』,フランクル著・霜山徳爾訳『夜と霧』,1957年は原田康子の『挽歌』,三島由紀夫の『美徳のよろめき』,1958年は五味川純平の『人間の条件』6巻,1959年は安本末子の『にあんちゃん』,1960年は謝国権の『性生活の知恵』,1961年は小田実の『何でも見てやろう』,1962年は山口清人・久代の『愛と死のかたみ』,ジョイ=アダムソンの『野性のエルザ』,山岡荘八の『徳川家康』,1964年は河野実・大島みち子の『愛と死をみつめて』,1966年は三浦綾子の『氷点』,1971年はイザヤ=ベンダサンの『日本人とユダヤ人』,1974年はリチャード=バック著・五木寛之訳『かもめのジョナサン』,1980年は山口百恵の『蒼い時』,1981年は黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』,1982年は鈴木健二の『気くばりのすすめ』などとなっている。以上列記したもののうち,戦後のものの多くは,年間100万部を突破するミリオンセラーとなり,黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』・鈴木健二の『気くばりのすすめ』のごときは年間数百万部に達し,未曽有の発行部数を示すにいたった。

〔参考文献〕庄司浅水『本・本の世界』1970,毎日新聞社

庄司浅水『本の文化史』1977,雪華社

庄司浅水『日本の書物』1978,美術出版社

庄司浅水『本の五千年史』(『定本庄司浅水著作集』第12巻)1980,出版ニュース社

庄司浅水『写真にみる日本の本』1984,保育社

庄司浅水『写真にみる西洋の本』1984,保育社

D.C.McMurtrie“The Book. The Story of Printing and Bookmaking”. 1943, New York

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