●ホーフマンスタール
ヨーロッパ オーストリア共和国 AD1874 オーストリア=ハンガリー帝国
1874〜1929 オーストリアの詩人・劇作家・エッセイスト。ユダヤ人の血をひく富裕な銀行家の一人子としてウィーンに生まれる。すでに17歳のとき文壇に登場し,その繊細優美な詩句と老成した人生智とにより,早熟の天才として世を驚かせた。彼の文学的生涯は,祖国オーストリアおよびヨーロッパ文化の命運と深くかかわっている。世紀末ウィーンを背景とした1900年までの彼の創作は,溢れんばかりの詩的才能と死の不安を感受する魂の所産である。『昨日』(1891)・『痴人と死』(1893)などの韻文劇や抒情詩は当時の人々の陶酔と共感を呼んだ。『第六七二夜の物語』(1895)ほかの特異な短篇も重要である。そして世紀の転換は彼にとってもまた転換期であった。その重要な証言が『チャンドス卿の手紙』(1902)である。言語表現の危機を訴えるこの散文は,その後の文学の運命を予言したものとして文学史的にも特筆すべき作品である。以後彼は抒情的な表現形式を断念し,『エレクトラ』(1903)ほかの古典劇の翻案や『詩人と現代』(1906)ほかの優れたエッセイを書いた。R. シュストラウスと協力して,『ばらの騎士』(1911)などのオペラ台本を書き始めていくのもこの時期である。第一次世界大戦後,伝統的なヨーロッパ文化の崩壊を痛感した彼は,その危機的状況を訴え,あるいは宗教的省察にもとづく共同体の再生を希求していく。そのなかから小説『影のない女』(1919),喜劇『気むずかしい男』(1921)・戯曲『ザルツブルグ大世界劇場』(1920)・『塔』(1925)などの作品が生まれた。未完の教養小説『アンドレアス』(1932刊)も重要な作品である。彼の文学は,幅広い教養を背景に,陰翳に富んだ繊細流麗な言語表現を駆使しつつ,人間存在や時代の危機を感知する不安な魂がその核に潜んでおり,それゆえにこそ,激動の時代におけるヨーロッパの精神状況の文学的証言ともなりえたのである。