●ポセイドン
ヨーロッパ ギリシャ共和国 AD
ギリシア神話の海神。語源については定説はないが,ギリシア語であると思われ,神格の変遷がみられる。古くは地震の神であり,泉や河川の神であった。それゆえ“大地の夫”とか“大地の主”と解釈される。重要な称号にエンノシガイオス(地を震わせる者)とかガイエオクォス(大地の保持者)があり,恐らく“大地の女神の夫”を意味すると思われる。ポセイドンの古い崇拝はギリシア北半のテッサリア・ボイオティア・アルカディアなどの地方にみられる。多く地母神デメテルの伴侶とみなされている。ポセイドンはまた馬神とも考えられている。ある伝承では,ポセイドンは馬としてデメテルと合体し,馬のアリオンを生み,ゴルゴンの一人メドゥーサによって天馬ペガソスを得た。これらの神話は,ギリシアに最初に馬を紹介したインド=ヨーロッパ系の侵入者が,ポセイドンを同伴したということを暗示するのかもしれない。北ギリシアおよび中央ギリシアに定住し,農耕に転換する過程で,彼ら侵入民族は,地母神とポセイドンの結びつきをもたらし,水神としての神格を彼に付与したのであろう。ホメロス時代に入るとポセイドンは海神となる。ギリシア人と海との深いつながりが生まれたのである。ホメロスによると,ポセイドンは,ゼウスおよびハデスとともにクロノスとレアの子であり,兄弟が協力して父を倒してのち,くじ引きで支配圏を決めたところ,海洋が彼にあたったという。彼は時おりはオリンポスに出向くが,大抵はエーゲ海の深みにある宮殿に,イルカや魚を従えて棲む。彼の主な武器は三叉であり,これを使って嵐をおこしたり,岩を裂いたりする。ポセイドンが巨人や怪物の父であるということは,初期のギリシア人の航海の体験を物語るかもしれない。オリオンやアンタイオス,オデュッセオスによって盲目となったポリュフェモスなどを生む神は,それ自身残忍で狂暴な恐怖の対象なのである。ポセイドンは自らを主人公とする神話の少ないことそも注目に値する。ラオメドンのためにトロヤの城壁を築いたのはアポロンと一緒であった。アテナイのパルテノン神殿の破風に刻まれた彼は,アッティカの守護神の地位を賭けてアテネと争って敗れた姿である。ポセイドンは塩水の湧出する泉を提供したが,アテナイの人々は最初のオリーブの樹を贈ってくれたアテネを選んだのである。偉大な神であるがゆえに,ゼウス神と競合する面が多く,ゼウスがギリシア宗教史のなかでしだいに唯一神の性格を帯びてくるに従って,ポセイドンはハデスとともに軽視されるようになったと考えられる。しかし,ポセイドン崇拝はコリントスでは,イストミアという汎ギリシア的祭礼を生み出したし,クレタ島や小アジアでは牛と結びついて,さまざまな伝説をつくりだしたのである。
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