●北欧民俗学 ほくおうみんぞくがく
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北欧では自国民族の物質文化・慣習・社会制度などを扱う分野を「北欧(あるいはフィンランド)民俗(族)学」(etnologi(白丸ス),kansatiede(フィ))と称し,口頭伝承・民間信仰などを扱う「民間伝承学」(folkminnesforskning (白丸ス),kansanrunous(フィ))と区別する。スウェーデンでは,両者は,「北欧(あるいはヨーロッパ)民衆生活研究」(folklivsforskning (白丸ス))として統合される傾向にある。【物質文化研究】物質文化に関する研究は,スウェーデンにおいて,S.ニルソンや民間伝承学でも知られるヒュルテーン=カヴァリウスらにより1930年代から始まったが,進化論的観点から,主に自国民族文化の発展の解明や古い伝統の存続に関心が向けられた。しかし言語的・歴史的に関係の深いスカンジナビア諸国では,民俗学は,スカンジナビアさらにヨーロッパ地域民族学として位置づけられるようになった。また研究と並んで資料収集も活発に行われ,スウェーデンで A.ハセリウスにより設立された北方博物館とスカンセン野外博物館は,ほかの北欧諸国の郷土・野外博物館の先がけとなった。フィンランドの民俗学はスカンジナビア諸国とは異なり,研究対象範囲を西ヨーロッパよりむしろ言語的に同系にあるウラル諸民族との関連においてきた。民族ロマン主義を背景とし,言語的に同系の民族に文化の起源を求める一方,各民族に見られる文化諸現象を進化論的に体系化しようとする傾向が強かった。代表的な研究者として A.ヘイッケルやU.シレリウスなどがある。今世紀に入るころから民族学の世界的潮流として伝播論が台頭し,文化要素の分布と多層性に関心が向けられた。スウェーデンの S.エリクソンは,種々の文化要素の地理的分布を,地図を積極的に利用し文化圏の概念を導入した。また後に機能主義の影響を受けたエリクソンは,精神文化を含め文化を一つのまとまりとして社会的・機能的関係のなかで把握することを提唱し,1920〜1960年代にかけて北欧民俗学の指導的立場にあった。同様に機能主義的観点からデンマークの A.ステーンスベア,フィンランドの K.ヴィルクナらが1930年代から自国の民族学の基礎を礎いた。
【民間伝承学】北欧の民間伝承学も民族ロマン主義に啓発されて始まったと言える。既に18世紀からいくつかの採集が行われているが,本格的な採集や研究は19世紀に入ってからである。フィンランドでは E.リョンロトが民詩を数多く採集し,それらを中心に民族的叙事詩カレワラ(1835)をまとめあげ,人々の民間伝承に対する関心を高めた。ほかの北欧諸国では中世バラッドが関心の対象となった。散文伝承では,グリム兄弟らの影響で昔話集の刊行が19世紀後半に相次いだ。ノルウェーでは
J.モーと P.アスビョルンセン,フィンランドでは E.サルメライネン,デンマークでは S.グロントヴィによるものが知られている。北欧では,口承文芸への関心はロマン主義的動機から採集が始まったが,早くから正確な資料の採集と保存が進められ,組織的収集により地域的・量的にも資料の拡大に努めてきている。とくにフィンランドではそのための組織としての文芸協会が設立され(1831),資料数・整理方法では世界的に有名である。このような豊富な資料を背景とし,K.クローンは昔話の類話を比較検討することにより,その原型・発生地・伝播経路を求める歴史地理学的方法論を築いた。その弟子 A.アールネは,その手段として昔話のタイプ分類法を開発した。これは後にアメリカ人 S.トンブソンにより拡充されたアールネ・トンプソン分類として広く用いられている。歴史地理学的方法は北欧では,デンマークの A.オルリック,ノルウェーのM.モー,R.クリスチャンセンにより昔話研究に適用された。オルリックは口承文芸に関する規則性を指摘したことで知られる。1907年にはクローンとその支持者により Folklore Follows が設立された。スウェーデンの C.シュドウやJ.スヴァーンは歴史地理学的方法の主張する口承文芸の漸進的な伝播を疑問視し異議を唱えた。とくに機能主義的立場をとるシュドウは,地域や文化ごとに異なるタイプの口承文芸が発達するというオイコタイプに関する説を発表した。フィンランドでは機能主義的観点から H.ハーヴィオが数多くの研究を行った。第二次世界大戦後,北欧の民間伝承学では,構造主義的立場からの伝承内容の分析や,伝承者・話者の伝承形態や役割・世界観などの研究がスウェーデンの C.ティルハーゲン,ノルウェーの B.ホドネ,フィンランドの J.ペンティカイネンなどにより行われている。
【北欧の主要な研究機関】北欧民俗学の主な研究機関としては,フィンランド文芸協会・オスロ大学民間伝承学研究所・デンマーク民間伝承コレクション・スウェーデンのウプサラ方言・民間伝承学研究所,ルンドのヨーロッパ民族学・民間伝承研究所などがある。1959年には北欧民間伝承研究所(NIF)が設立され,研究大会・出版物により,民俗学全域にわたり北欧民俗学者の協力・意見交換機関として活発な活動を行っている。
〔参考文献〕カールレ=クローン著,関敬吾訳『民俗学方法論』1977,岩波文庫