●法人類学 ほうじんるいがく
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法社会学から分かれた形で,最近,国際的関心を集めつつある新しい社会科学である。学問としての対象・方法・体系はまだ形成中だが,一口で言うと法の人類学的研究あるいは文化としての法の研究。わが国では,未開社会の法習俗を対象として法民族学(青山道夫による)や民族法学(江守五夫による)などが唱えられたが,世界では,現代社会に生きて働く非公式のフォークローを文化現象として研究するものをこの名で呼ぶ。【現在までの発達】19世紀初頭に,法は西欧近代国家における一元的な実定法を唯一のものとする制度との観念が確立したが,これに対して同世紀後半には,歴史における原始ないし古代の社会にもまた近代に現存する非西欧の社会にも,それとは別種の法があるという批判的な着眼からこの学問がおこった。この法は,イギリスの法史学者メーンや,アメリカの民族学者モーガンがその事実を詳細に指摘した後,一般に「未開法」と呼ばれるようになった。これは,そのころ全盛だった社会進化論に従ったもので,「発展段階としては文明以前にとどまる未開社会のものが現代にも残存している」という理解であった。しかし20世紀に入り人類学が近代社会科学として発達するに伴い,進化論が批判され「未開法は過去の遺物ではなく近代国家法とは原理・制度を異にするが現に未開社会に有効な法だ」と理解されるようになった。これを確立させたのがイギリスのマリノフスキーの『未開社会における犯罪と慣習』(1926,青山道夫訳)で,これと国家法との共通の枠組みを構想したのがアメリカのホーベルの著書(1954)であった。1960年代には,「未開法を孤立化させずに部族生活全体のなかで観察しよう」としたイギリスのグラックマンの「部族法」という用語が多く用いられたが,1970年代後半からは,それも多元的法体制における「フォークロー」に代わりつつある。フォークローの概念は,非西欧を主とはするが西欧をも含み,各社会が固有の文化として保持している非公式の法をさし,それが公式の国家法と協調・補完あるいは対立・矛盾の相互関係をなす状況を直視し解明しようとする意図を示している。
【成果と課題】初期の成果としては,マリノフスキーによる「互酬性および公然性」という法の原理,ラドクリフ=ブラウンによる「サンクションの理論」,エヴァンス=プリチャードによる「リネージの部族秩序規制作用」などがあるが,ホーベルとグラックマンに先導された紛争処理研究が現在とくに大きな影響を与え,現代国家において裁判に代替する紛争処理手段を研究する法社会学の動向とともに紛争研究を促進している。現在の課題としては,イギリスのフーカーの『多元的法体制』(1975)をフォークローを通して確認することが最大と言えよう。紛争研究は,非西欧諸国についてだけでなく,西欧諸国についても固有の非公式紛争処理手段と裁判その他の公式の制度との相互関係を具体的に調査している。また少数民族のフォークローも,カナダのエスキモーやオーストラリア原住民について典型的に見られるように,正確な認識と適切な保護がはかられている。さらにそのような諸問題の前提的課題として,「法文化」の概念と実態について関心が深まりつつある。わが国では法意識の概念で呼ばれている問題は,実はこの法文化の一形態である。このような文化への関心は伝統的法学が本来的に西欧的性格をもつという批判を呼びおこし,その結果第三世界法学を要望する声も表れている。
〔参考文献〕サイモン・ロバーツ,千葉正士監訳『秩序と紛争−−人類学的考察』1982,西田書店
E.A.ホーベル,千葉正士・中村孚美訳『法人類学の基礎理論−−未開人の法』1984,成文堂
千葉正士「多元的法体制におけるフォークロー−−法人類学の課題」思想1,1985号