●防寒具 ぼうかんぐ
AD
寒さを防ぐための服物の総称。その範囲は漠然としていて,かぶりもの・きもの・はきもの・雨具などの一部に含まれるとも解され一線を画しがたい。また,南国では防寒具は存在しないとするのは早計であるものの,現在知られているものの多くは北国ないしは寒風にさらされる地域のものが注目されているにすぎない。南国などでは,逆に防暑具とでもいうべき服物に留意しなければならないかも知れない。防寒用のきものでは,ドンコなどと呼ばれる胴着や綿入れなどの袖無し類が連想される。綿花が栽培されるに及んで,綿をなかに入れることで防寒が容易になったことは確かである。袖無しは,立居振舞いの便利さをも考慮したもので,起居を基本とする生活に合うので重宝がられている。しかし,綿花栽培以前ないしそれの栽培が自然的条件のために制約された地域では,刺し子着物や木綿切れをヨコイトに利用した裂織りなどで対処しようとしたのである。ただ,これだと分厚く,漁夫用の着物はもちろん防寒用のもので,かつ波しぶきや寒風除けに役立った。加えて防寒用のきものでは,袖口から寒気が通らないようそれを狭く縮める仕立てをしたし,首筋に襟巻き・首巻きの類を巻いて補うことも忘れられない。ワタボシ・カメノコなどと呼ばれる防寒具は,タママユを薄く引き延ばして丸形にしたもので,背中の大半を被うぐらいの大きさにし,二本の紐を取り付けて前で結ぶものである。軽くて気にならない点で優れそれでいて保温効果が抜群である。汚れの目立たないよう藍染めしたものと染めない白地のものの別があるが,ともに感嘆に価する。かぶりもの類での防寒具では,雪中に立ち働く山樵や山野を駆けめぐる狩り人たちが着装するものと,秋田県から新潟県北部の日本海側地方に広く見られる覆面が注目をひく。前者はメダシボウなどと呼ばれ,両眼を露出させるぐらいで,後頭部からまわして顔面のほとんどを被いかつ廂をつけて陽除けを兼ねるものである。また後者は手拭い状の細長い布切れで,ハンコタナ・ハナンガ・ドモコモなどと呼ばれる。黒っぽく色染めされたものが一般的で,陽除けを兼ねて両眼だけを出すものである。“三幅前掛け”と呼ばれる,細長い布を三枚縫い合わせ,その縫い目にウマノリをつけたかぶりものも一種の防寒具である。それらは女性に好まれ,男たちはテヌグイの頬かぶりをした。野兎の毛皮を用い紐を付けた“耳当て”はもちろん防寒具である。はきもの類でも防寒用のものは少なくない。たとえば,狩り人たちが履いたケタビ。カモシカの毛皮沓である。長時間の雪中歩行にもぬれる度合が少なかったのである。ツマカワ付きの雪下駄,雪踏み用などに履いたワラグツおよび爪掛け・踵掛けなども保温に役立ったことは確かで同様に解される。それらの多くは,藁製でぬれやすいことは否めないものの,編みやすいことも手伝って広く使用されたものである。また跨から発展したといわれる脛巾類は,脚を保護する一面のあることは確かで,布製のもののほかガマ・シナで編んであり防寒にも一役買ったことは言うまでもない。その他,雨降りの日に着装するみの・けら,起耕のさい泥除け用につけたこしみのなどには,防寒具としての機能を果たすものがあった。このように具体的に検討すると,身体の露出部を少なくし体温が外部に逃げないように種々の工夫をこらしたところに防寒具の特色があったと言える。しかもそれには単に防寒のみの目的があったというべきでなく,風雨から身を護るという意味も兼ねていたのである。こうした観点から,寒気をさえぎり保温に役立ち,かつ着ぶくれせずに用を達成できる素材が工夫され利用されてきたと言える。この点,各種の植物性繊維が取り込まれたほか,動物の皮類が“皮胴着”・“着皮”・テツキヤシ(毛製手袋)・“腹当て”などに広く防寒具の素材として活用されてきたことは注目される。体験による知恵と言うべきであろう。