●文体 ぶんたい
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文章の体,文章のスタイル。ふつう書きことばに関していう。ある文章は,その目的・内容や,時代的制約による記載様式・使用語彙・文法や,さらに書き手の資性・個性にもとづく美的理想などから,多様な形態を示し,読み手に違った印象を与える。この違いを類型的に,あるいは個別的にとらえたものを文体といっている。辞書的記述では,[1]文章のスタイル。語彙・語法・修辞など,いかにもその作者らしい文章表現上の特色。「彼は独特の文体をもっている」「紫式部の文体」「奥の細道の文体」など。[2]文章の様式。漢文体・和文体・和漢混交体などといい,また叙事文・評論文・書簡体などという,のように2項に分けるのがふつうであり,また詩歌俳諧の類は対象とせず,散文的表現に関していう場合が多い。 以上は概観であるが,その包摂するところは多様である。[1]個の表出としての文体。近代の欧米言語学・文芸学のなかで育った文体論の対象したのは,この文体であり,文体を特定の作家・作品における個性的表出とみる。〈(思想は借りることが出来るが)文体こそは人そのものである〉という G.ビュフォン(1707〜88)の命題に始まり,C.バイイ(1865〜1947)の言語活動の情意的表現手段の研究などをへて,わが国でも,〈文は人なり〉(高山樗牛,1871〜1902)の命題で入り,文体論の発展につれて,今日の文体の中心概念となった。文体を個性の表現とみるのである。「芥川龍之介の文体」「志賀直哉の文体」「“細雪”の文体」という場合の文体である。研究は,(ア)「一定の美的理想に適合せる一定の言的構造を具備せる文章」としての文体がもたらす映像を,構文法・語彙・筆ぐせなどの考察によって証明する,言語美学・美学的文体論。(イ)文章を書く場合の心理的根拠を明らかにし,文章のジャンルや作家の文章の類型性を考察する。文の長短・品詞分布などを数量的に処理する,文章心理学。(ウ)文体は作品の内容との相関から生まれるという立場から,文章構成やキーワードに及ぶ分析を加える,などの方向を採っている。
[2]文章諸体としての文体。日本語の文章は,漢文の模倣に発し,その表記に用いられる文字により,また文化的特殊性による言文二途の事情から特異な形態上の成長を示した。その特性を文章の範疇とみて,文章諸体とし,類型とみるのである。この立場は,伴嵩蹊『国文世々の跡』(1777,安永6)が仮名文を中心に古体・中古体・近古体に分かち,消息文・漢文訓読体にふれ,榊原芳野『文芸類纂』(1878,明治11)の「文志」が文章諸体として,古文体と漢文体とに2大別して系統図をつくろうとしたのを継ぐものである。古代(上古・中古)の言文一致体から,中世・近世・近代初期に及ぶ擬古文語体への変遷を,類型的な文体としてとらえる。さまざまの見解があるが,今日的には次のように分けられるであろう。[1]の個的文体もすべてこれらの類型的文体に含まれ,またそれを形成しているという関係にある。
(ア)漢文体。〈皇子者,浄御原帝之長子也。状貌魁梧。器宇峻遠。幼年好学。博覧而属文。及壮愛武…〉(『懐風藻』)のように,まったく漢文体であるもの,『日本書記』中の文から『大日本史』『日本外史』に及ぶ。
(イ)変体漢文体(東鑑体・記録体)。〈一日庚申,蒲冠者範頼,主蒙御気色。是去年冬,為征木曽上洛之時,於尾張墨俣渡,依相爭先陣与御家人等闘乱之故也…〉(『吾妻鏡』)のように,全文漢字で綴られるが,語法措字は和化したもの。公卿日記類その他,『古事記』もすでにこれである。
(ウ)漢文訓読体。〈今ハ昔,池ノ尾ト云フ所ニ,禅智内供ト云フ僧住ミキ。身浄クテ真言ナド吉ク習テ,懃ニ行法ヲ修シテ有ケレバ,池ノ尾ノ堂塔僧坊ナド露荒タル所旡ク,常燈仏聖ナドモ不絶シテ〉(『今昔特語集』)のように,漢文訓読の文章を仮名交じりで書下した文体。明治初期開化小説に及んだ。
(エ)宣命体。〈天皇朝庭尓仕奉留…八十伴男乎始弖,宮宮尓仕奉留人等能,過犯家牟雑々罪乎,今年六月晦之大祓尓,祓給比清給事乎,諸聞食止宣…〉(祝詞)のように,日本語の語法で書き,助辞などを万葉仮名小字で示すもの。和文のおこり。
(オ)和文体(仮名文体)。〈わらはやみにわづらひたまひて,よろづにまじなひかぢなどまゐらせたまへど,しるしなくて,あまたたびおこりたまへば,ある人,きたやまになむなにがしでらといふところにかしこきおこなひ人侍る…と申したれば…〉(『源氏物語』)のように,ほとんど全文を仮名書き・中古国語法で表したもの。後世,
(カ)雅文体,と称するものは,(オ)の系統の擬古文である。
(キ)和漢混交体,〈さる程に,阿波讃岐に平家をそむいて,源氏を侍ける物ども,あそこの峯,ここの洞より,十四五騎,廿騎,うちつれうちつれまゐりければ,判官程なく三百余騎にぞなりにける〉(『平家物語』)のように,表記においても漢字・仮名を混用し,語法においても,中古語法を素地としながら,かなり当代の語法を取り入れた文体。中世・近世・近代初期を支配した。
(ク)文語体(擬古文)。
(ケ)普通文(明治文語文)と呼ばれたものも,この範疇に入る。〈世おのづから数といるものありや。有りといへば有るが如く,無しと為せば無きにも似たり〉(幸田露伴『運命』)のスタイル。
(コ)候文。〈申入候,此巻絹一疋,従公拝受,具足も祖より我等迄着古候へども,長かたみとおくり候〉(楠正成書簡)のように,中世後期から発達した書簡文体。女子文では「まいらせ候」体となる。昭和前期までつづいた。
(サ)現代文(口語体)。明治前期の文体改革,すなわち言文一致運動によって生まれた現代国語文といわれるもの。
[3]現代文の常体と敬体。現代日本文の文体は,言文一致でなくてはならないといいながら,述語・指定辞が文末に来るという日本語の特性から,なかなか“文体”を獲得できず,文芸の上で[a]〈彳んで居る身は吾か人かのやうです〉〈闇が暫時濃く為つて星も光を隠して居ます〉(山田美妙『蝴蝶』),[b]〈お政ばかりでお勢の姿は見えぬ〉〈恐る恐る座舗へ這入ッて来る〉(二葉亭四迷『浮雲』),[c]〈余り好い心持は為ぬのである。帰って来るのは誰の家である?〉(尾崎紅葉『多情多恨』)のような文末表示が試みられることによって,ようやく成立したといわれる。今日的には,
(ア)常体(普通体)。文末表示によって「だ・である」体といわれる文体や,(イ)敬体(丁寧体)。文末表示によって「です・ます」体といわれる。「であります」「でございます」なども含む,に2大別される。現代文の基調に関する類型的文体の一つである。
[4]文章の種類としての文体。表現意図・文章の目的によって,実用文と芸術文,叙事文と抒情文,論説文・説明文・報告文などの別をたて,その各々に特質があると考えた場合の文体である。もっと具体的には,書簡文・商用文・法令文・宣言文などを立て,宣伝文(広告文)に及ぶ。
[5]修辞法上の文体。旧修辞学の立場から文章を,簡約体と蔓衍体,剛健体と優柔体,乾燥体と華麗体,素朴体と巧緻体などと区別し,あるいは,対句法・掛詞法・エン※注1※語法・比喩法・朧化法・省略法などの存否から文章をみた場合の文体である。文章のリズムを論ずる場合も,この類に近い。
文体を研究対象とする学を文体論といっていいが,以上のような観点に立つと,それは,言語表現(記載様式・語彙・語法・修辞・リズムなど)の個別的特色を特定の作家・国語(民族)・時代・流派などについて研究するもの,といってよいであろう。
〔参考文献〕時枝誠記『文章研究序説』1949,山田書院
日本文体論協会『文体論入門』1959,三省堂
西尾光雄『日本文章史の研究上古篇・中古篇』1967,69,塙書房
小林英夫『文体論の建設』1943,三省堂
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