●表意文字 ひょういもじ
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表意文字は,別名漢字のことである。したがって,現在われわれが使用する文字は,表意文字の漢字と表音文字のローマ字や平がな・片カナなどとなり,これを一覧表で示すなら,(図表入ル)
となる。表意文字の定義を辞典類でみるなら,〈一字ごとに意味を表わす文字。漢字の類。意字〉(角川版,漢和中辞典),〈ことばを主として意味の面からとらえて,一定の意味をもつ語のそれぞれに対応させた文字。絵画文字・象形文字・漢字の類で,その字形には,事物の形象をかたどったもの,符丁的な図形を用いたもの,またそれらを組み合わせたもの,それらに表音的な符号を添えたものなどがある〉(小学館版,日本国語大辞典)などとなる。
では漢字であれば,すべての漢字が,いつ,いかなるときでも表意文字であるといえるのか,と問われると,是と非の二つの面があり,いちがいに,肯定するわけにはいかないことである。たとえば,ここに「波」の字があったとしよう。この字が「なみ」と読まれ,発音されるとき,これは表意文字である。たとえば,「波間」と書いて「なみま」という場合である。だが,これが音で「は」と読まれたとき,表意文字となり,表音文字ともなる。たとえば「波及」「波紋」「波流」などは,それぞれ「はきゅう」「はもん」「はりゅう」などの「は」で,いずれも「なみ」の意味をもっている。したがって,これらの「は」は表意文字とみられる。ところが,万葉仮名の一つとしてつかわれる場合,たとえば「伊波紀」(岩木―のこと)「伊波牟」(言はむ―のこと)などに使われるとき,「波」には「なみ」の意味はまったくない。あるのは,岩木という名詞なり,言はむという動詞なりの音を出すために,「波」が「は」として使われただけのことである。したがって,この「波」は表音文字である。このように,訓でみて表意文字であるものが,音でみて表音文字になったり,表意文字になったりすることである。では,もう一つ,みておこう。たとえば,ここに「山」の字があったとする。これの音は「サン」であり,訓は「やま」である。音でみるとき,「山村」「山居」「山水」は,いずれも「さんそん」「さんきょ」「さんすい」などで,「さん」は「やま」の意味である。一方,訓でみるとき,「山守」「山伏」「山水」などは,いずれも「やまもり」「やまぶし」「やまみず」の「やま」で,「やま」の意味をもつ。したがって,「山」を「やま」「さん」と発音し,「山」の意味がある以上は,これらはいずれも表意文字である。だが,これが「やま」と発音されても,「山」の意味がないとき,たとえば,万葉仮名において「山目」として,「止まめ」の意味に使われる場合,これは表意文字ではなく,表音文字とみられている。
このように,一つの文字が本来の意味をもたずに,ただ,その音を導き出すために使われるのを仮借文字,または仮訓文字という。訓を借りてくるだけのことで,元の意味がないからである。このように,漢字一つを取り上げても,そこでの使われ方が,元来の意味(基本的には訓読み)をその字が発音において保持しているのか,あるいはしていないのか,ということで表意文字にも,表音文字にもなることである。ここで,仮借文字が出てきたので,「六書(りくしょ)」に触れておくことにする。六書とは,漢字の成り立ちとその使い方を6通りからみたもので,成り立ち,すなわち,構成法は次の四つから成る。(1)象形文字(しょうけいもじ)−−物の形を文字に適用したもの,(例)山・川・月・日・木・人・口・目・魚・鳥など。(2)指事文字(しじもじ)−−抽象的なものを具体的にしたもの,(例)上・中・下・末・凹・凸・一・二・三など。(3)会意文字(かいいもじ)−−象形文字や指事文字などを組み合わせて,一つの意味を表したもの,(例)林(木+木)・森(木+木+木)・見(目+人)・古(十+口)・炎(火+火)・信(人+言)など。(4)形声文字(けいせいもじ)または諧声文字(かいせいもじ)−−音韻を示す部分と意義を示す部分とから成り立っているもの(すなわち,二つの字を組み合わせて,半分は形(意味)を,他の半分は音(声)を表す文字のこと),(例)清・精・晴(これらは,いずれも青・セイの音)・花・囮・貸(これらは,いずれも化・カの音)など。
次にその使用法の二つをみよう。(1)仮借文字(かしゃもじ)−−その文字本来の意味はなく,その音を借りて使用したもの,(例)アメリカ(亜米利加)・イタリア(伊太利)・アジア(亜細亜)など。(2)転注文字(てんちゅうもじ)−−既成の文字の本来の意味を転用したもの(すなわち,文字の意味をひろげたり,ほかの似ている意味を表すのに使ったもの),(例)「恋」は人が心ひかれるので,その意味を「こいしい」とした。「悪」は人が憎むものなので,その意味を「にくむ」とした,など。このように,漢字の構成法と,その使用についての六書をみることは,表意文字について考えるときの一つの目安になることである。すなわち,構成法(1)の象形文字は表意文字であるが,使用法(1)の仮借文字は表音文字である,というようにである。表意文字の種類を次にみよう。表意文字として知られている代表的なものに次のものがある。(1)パナマの岩石文字,(2)ペルーの縄文字,(3)エジプトの象形文字,(4)アメリカのスペリオル湖のアメリカ=インディアンの絵文字,(5)中国の甲骨文字(こうこつもじ)。これら以外にも多くあるが,こうしてみると,世界各地にわたることで,文明の発達における共時性をみる思いがして興味深い。
表意文字の性格を考えてみよう。一口に表意文字といっても,その表現のしかたからして,それぞれの特徴をもつ。先にみたように,ペルーの表意文字は「縄」を用いたものであり,パナマの岩石文字は,岩石に書いたものであり,エジプトの象形文字は壁面に刻み込んだものであり,中国の甲骨文字は亀や鹿の骨を用いたものである。こうした表現方法の違いは,そこに含まれる意味の解釈にも差異を生ずる。たとえば,絵文字の場合,その文明の発達段階によって,一つのまとまった絵が一つのまとまった意味をもつ(たとえば,先のアメリカ=インディアンの絵文字がそうであるものと,絵文字の連続を通して一つの意味をなすものとに分けられる。また,漢字にみる象形文字のように,甲骨に刻(きざ)まれた一つの記号が,一つの独立した意味をもつものもある。漢字の象形文字はその意味で,特異性が指摘されると同時に,その文明的面の高度性が評価されている。終わりに,表意文字とわが国の漢字文化について触れておく。中国から漢字が輸入され,それを積極的に吸収した上代の日本人は,その漢字の音を用いて,万葉仮名を編み出した。このことは,漢字を十分に理解した段階であることを物語るものである。ところが,その段でわが国の風土と照らし合わせたとき,既成の漢字を表意文字としても,そこに十分に表現しえないことのあるのに気がついた。そこで表意文字をより多く用いて,表現を可能にする手段として考案されたのが,国字の誕生である。たとえば,峠・杣・凪・榊・椙・畑・畠などがそれである。これら国字の発明によって,漢字は一段とわが国の文化に根を張ることになったのである。その国字の発明に表意文字の果たした役割は大きいものであった。
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