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●火祭 ひまつり

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 火を使う祭。わが国の火祭のうち,最もひろがりの大きいものは小正月の一連行事として行われるトンドであろう。正月に飾った松飾りや注連縄などを1カ所に集めて焼くもので左義長とも呼ばれている。左義長については『徒然草』にも,〈さぎちょうは正月に打ちたる毬杖を真言院より神泉苑へ出して焼き上ぐるなり〉と記され,宮廷で行われていた火祭のようすをうかがうことができる。左義長の呼称そのものは北陸方面に濃密に分布し,そのほかの神社行事にもこの呼び名がある。このほかトンド・ドンド・ドンドン焼きなどの呼称はきわめて広い地域に分布している。埼玉県北から群馬県下のドウロクジン焼き,新潟県地方のサイノ神,長野県松本市周辺の三九郎焼き,山口県・広島県の瀬戸内沿岸部の神明祭などは,それぞれの地域の神との結びつきをよく示しているものである。小正月のトンド焼きに先立って,正月7日に門松を焼くところが東日本にもみられるが,九州地方ではホンゲンギョウ・鬼火焼などと称して1月7日に火祭をする所が多い。火祭の特徴としてあげられるのは子供たちの行事が中心になっていることである。松飾り・注連縄・古札・だるまを神社前・道祖神前・辻・村境・河原・浜辺などに集めて焼くのであるが,多くは中心にオンベ竹を立てた円錐形の塔をつくる地域がみられる。火を点火するのは未明,もしくは夕刻・夜半などで,このときに村中の人が集まり,炎は天を焦がすのである。全国的にこの火には呪力があると信じられており,この火にあたると風邪をひかないとか,この火で焼いた団子を食べると精がつくとか,書き初めを燃やして高く舞いあがれば上手になるなどといった。道祖神や山の神ばかりでなく,神や仏の祭場で火を焚くことは,冬から新春にかけ各地で盛んに行われる。12月17日に岩手県紫波郡矢巾町の観音堂で行われる火祭では,燃えさしの炭を額につけると無病息災になるという。山形県酒田市日吉神社では,1月16日に氏子が浜方と里方に分かれてクラニオに火をつけ,早く燃えつきた方が豊作という,京阪神地方のお火たきは,旧暦11月に行われた火祭で,今日では新暦の12月に多く行われる。九州の佐賀県鹿島市祐徳稲荷では12月8日の夜,境内に木や青竹の山をつくり,一陽来復を祈ってお火たきをする。この火にあたると災厄を逃れ,運が開けるといわれている。松明を中心とする祭で著名なものは,大晦日に行われる山形県羽黒町出羽三山神社の松例祭があげられる。ツツガ虫の形をした大明づくりの遅速巧拙を競い,また,裸の若者が火をつけた松明を捨てに行き勝敗を競い,年の豊凶を占う。このほか大分県国東半島の寺々に伝わる修正鬼会では,鬼の持つ松明でたたかれると厄除けになるとされている。火鎮祭としては,古くは陰暦6月と12月晦日に宮中で行われた火災防止を祈った神事である。

 今日では,12月から1月にかけて各地の社寺で鎮火祭,火伏せ祭を盛んに行っている。広島県宮島町厳島神社の大晦日鎮火祭は,斎火を移した大松明・小松明を持った若者たちが境内をかけめぐり,その余燼は火難除けのお守りとされている。このほか秋葉の名で著名な静岡県袋井可睡斎の12月15日の火防大祈祷などは有名である。東京都北区の王子稲荷では,初午に火伏凧市が開かれ,「王子稲荷神社火防守護」と書いた奴凧が火除けの札となり,火事を免れるといって人気を呼んでいる。このほか,火に関する行事としては,1月・2月には,年の初めにあたって災厄を払うために,各地の社寺で護摩がたかれ,祈祷がなされ,火渡りの式が行われる。また,元日には新たに斎火をおこす火鑽神事が各地の神社で行われる。

〔参考文献〕柳田國男『日本の祭』定本10,筑摩書房