●ビジュアル・デザイン
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われわれが日常受け取る情報のうち,約70%が視覚的なものだといわれている。この情報には伝達するという明確な目的をもつものと,芸術作品のようにそうでないものが含まれている。ビジュアル=デザインは主として実用的な情報を造形的配慮のもとに伝達することを目的とした計画,あるいは制作物をいう。そうした意味では,ビジュアル=コミュニケーション=デザイン(視覚伝達デザイン)と呼ぶ方が正確である。伝達の形式には個人的なものから,対社会的な不特定多数を対象とする,いわゆるマス=コミュニケーションまであるが,ビジュアル=デザインはマス=コミュニケーションを前提とする。ビジュアル=デザインが扱う情報には写真・イラストレーション・ダイヤグラム(図解・図表)などの図像と,各種のシンボルやサインといった広い意味での記号がある。これら図像と記号は視覚言語としてまとめることができる。また,ノン=バーバル=コミュニケーション(非言語伝達)の主要素として,言語と対比的に伝達上の特性が語られることがある。 視覚言語論は視覚伝達の過程に,言語における文法に似た,論理的構造を探ろうとする一種の造形理論である。1919年ドイツに生まれたデザイン学校,バウハウスでのカンディンスキーやクレーらの研究に端を発し,モホリ=ナギ(1879〜1946)やケペシュ(1906〜)らが発展させた。ナギは1929年に『素材より建築へ』,1947年には『動態のヴィジョン』を著し,ケペシュは1944年に『視覚言語』を刊行している。いずれもビジュアル=デザインを考える上で重要な指針となっている。またオーストリアの哲学者ノイラート(1882〜1945)が創案したアイソタイプと呼ばれる絵文字言語の体系化の試みも,視覚言語の貴重な実践例である。と同時にビジュアル=デザインの機能を社会的に認知させた功績は高く評価されている。【ビジュアル=デザインの成立と領域の拡大】ビジュアル=デザインはほかのデザイン活動と同じように,近代工業技術による大量生産を前提としている。生産されるのは印刷物・映像といった視覚情報である。複数の量的拡大は15世紀中葉のグーテンベルクの活版印刷術の発明時,すでに経験している。しかしマス=コミュニケーションと呼ぶ伝達の技術が生じるのは,新聞・出版・放送・映画などが産業として成立する今世紀に入って以降のことである。初期ビジュアル=デザインは機械による量産品の大量販売に,商業美術の名をもって貢献する。アメリカで工業デザイナーが誕生する1920年代のことである。以後,ビジュアル=デザインは製品の販売にかかわるポスター・新聞・雑誌広告・パッケージ・ディスプレイ(展示)・店頭広告など次々と領域を拡大し今日の CI 計画におよんでいる。CI 計画とはコーポレイト=アイデンティティ計画の略で,経営戦略の一環として企画全体のデザインに統一感をもたせ,そのイメージを高めようとするものである。
一方,印刷技術の進歩と並行して,出版活動も盛んになり,大部数発行の雑誌も生まれる。それらには視覚的表現の多用されたものもあって,エディトリアル=デサインの領域が確立する。
またその間,ラジオ・テレビの普及はすさまじく,企業の宣伝活動は多様化する。それぞれを連繋させ,宣伝効果を科学的分析を交じえて厳しく管理するようになる。
【日本のビジュアル=デザイン】明治初頭,デザインを図案(按)と訳したことから始まり,平面的デザインは応用美術・商業美術・宣伝美術と呼ばれながら,いちはやく社会的に活動を開始した。大正時代には各地に商業美術の団体が生まれている。戦後になって欧米のデザインおよびその思潮が本格的に紹介されると,商業デザインという呼称が一般化した。印刷における写真製版の普及と高品質化,テレビの普及は視覚伝達デザインの重要性を社会的にも喚起した。1960年に東京で開かれた「世界デザイン会議」は,わが国のデザイン界に強い刺激を与えた。経済や産業活動以外へもデザイナーの眼がむけられはじめ,都市空間におけるサイン(看板・標識類)や色彩といった公共性の強い分野の研究も生まれる。ビジュアル=デザイン・ビジュアル=コミュニケーション=デザインが用いられるようになったのは,このころからである。
現代のデザインは生産技術の特性を最大限に生かすことを求められている。ビジュアル=デザインにおいても例外ではない。印刷の技術特性を生かし,高度な表現を確立しようと,グラフィック=デザインの呼称が一般的に使われはじめる。
【グラフィック=デザイン】グラフィック=デザインはビジュアル=デザインのおもな領域を占める。印刷を利用して創造的表現を試みるため,グラフィック=アートと混同されやすいが,明確な伝達目的を持ち,大量複製を原則とする点がグラフィック=デザインの特徴である。形式としてはポスター・新聞雑誌広告・カタログ・カレンダーなどがある。要素的にはイラストレーション・ダイヤグラム・レタリング・シンボルマーク・ピクトグラフ(絵文字)・地図などがある。商業デザイン,宣伝・広告デザインの分野と重なる部分が多い。
国際団体としては1952年パリで生まれた「国際グラフィック=デザイン連盟」と1963年ロンドンで生まれた「国際グラフィック=デザイン団体協議会」がある。わが国には1951〜70年にかけ日宣美(日本宣伝美術会)があった。その後1978年「日本グラフィック=デザイナー協会」が設立されている。
【エディトリアル=デザイン】エディトリアル=デザインはグラフィック=デザインの一分野で,編集デザインと訳されている。書籍・雑誌の文章や図版をレイアウト(割付)することをいう。編集デザインの目的は著者の意図を読者に,正確に理解されやすく,しかも美しく興味をそそる方法で伝えることである。デザイナーは文字や印刷・紙・製本技術,最近では電算化に伴う機器などの知識と造形感覚が要求される。とくに文字に関するデザイン領域として,タイポグラフィがある。活版印刷術と訳されるが,今日では広く活字や写植文字による伝達の手段と考えられている。
【エンバイラメンタル=グラフィック】環境における視覚的表示物を対象とするデザイン領域を総称して,environmental graphicという。サイン(標識)を体系的にデザインするサイン計画や,建造物の色彩を公共的配慮も加えてデザインする色彩計画を含む。建物外壁を利用した巨大な造形,スーパーグラフィックや屋外広告・ディスプレイ=デザインも含めることができる。環境の質が問われはじめてから,注目されているデザイン領域である。
【これからのビジュアル=デザイン】光通信,視聴者参加の双方向テレビ,衛星通信網と情報技術の新時代が到来した。ビジュアル=デザインは視覚を軸としながらも,時間を伴った映像・音声・言語など多元的な情報への対応を迫られている。だが,一方でガーブナーがいうように,伝達技術の進歩は〈メッセージを交換する人間の能力をひろげたばかりでなく,人間の意識のシンボル的環境を変え,しかも変えつづけている〉点に注目する必要があろう。彼はこのことが最も奥深い人間のジレンマだといい〈知識が力を与えるということがいえると同様に,力は知識を生み,それ自身の目的のために知識を利用する〉と警告しているマス=コミニュケーションに携わるビジュアル=デザインの担い手は,こうした事実の認識に立って,初めて生産や環境デザインとともに健全な環境の形式に寄与することができるだろう。
〔参考文献〕『現代デザイン事典』1969,美術出版社
G.ガーブナー「コミュニケーションと社会環境」1972,サイエンスNO.11
藤沢英昭他『ビジュアルコミュニケーション』1975,ダヴィッド社
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