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●比較民俗学 ひかくみんぞくがく

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 民俗学との関連学問領域の進歩や社会状況の変化に伴い,都市民俗学や仏教民俗学などと並んで比較民俗学も民俗学の新しい領域として注目されている。

一国民俗学と比較民俗学】柳田国男は民俗学の体系化をはかる際に,日本人がもつ心意の究明を究極の目的とし,日本人が自民族を研究する内省の学として一国民俗学の確立を標榜した。この理論的な枠組は『民間伝承論』(1934)に記されており,同書には比較民俗学の構想も示されている。それによると,個々の民族がそれぞれの民俗学を発展させることによってその民族の心意を認識し,その成果を比較することによって本来の民族学に昇華させる。つまり,一国民俗学−比較民俗学−民俗学という学問上の発展図式が示されており,比較民俗学は一国民俗学の発展上に位置づけられていた。

【比較民俗学の方法と基準】柳田民俗学の方法には,国内の民俗事象を民俗語彙で表記して,その類型を比較するところに特徴があり,民俗語彙の類型を比較の基準として設定した。昭和15年ごろに柳田は,『朝鮮民俗』を主宰する今村鞆らに朝鮮半島における民俗語彙の作成を提案している。しかしながら,この方法を比較民俗学に採用する場合,民族間の言語の違いが方法上大きな障碍となる。さらに,日本以外の民俗における民俗学の発展を待たなければならず,柳田の提唱した比較民俗学は,構想の段階でとまらざるをえなかった。

 近年,韓国・台湾など東アジアの民俗に対する研究が盛んになりつつある。しかし,比較民俗学に対する見解は,異なった民俗文化体系の中からある民俗要素をそれぞれ抽出して比較するのではなく,個々の要素を各民族の文化体系のなかで意味づけしたのちに比較すべきことだとして,性急な比較研究を避けているのが一般的である。その一方で,比較民俗学における比較の基準に対する議論も進められている。宮田登は,従来の民俗語彙にもとづく比較研究は民俗をその伝承母体から遊離させてしまう弱点をもつが,民俗語彙をそれに伴う文化要素としての儀礼とセットしてとらえ直すことによって比較の基準として客観視できると民俗語彙の比較を前提とする方法に修正を求めている。さらに,漢字文化圏において漢字で表記される民俗語彙の比較事例の積み重ねについて提言している。千葉徳爾は,マックス=ウェーバーの比較の概念を比較民俗学の方法として導入することを提言している。すなわち,文化の比較とは,個々の文化要素間の類似と差異を指摘するだけでなく,それらの全構造における位置関係や意味づけを明らかにして,図式としてではなく形成過程における差違と類似を理解することであり,このような構造論的・発達史的な概念を比較の基準におくことによって比較民俗学が成立しうると新たな方法を示した。これは,文化要素が複雑に組み合わさった国家社会の歴史的構造を比較の視点におくという鈴木満男の主張に通ずる。

【比較民俗学の展望】日本民俗学の内在的視点の外への拡大化に伴って,近年韓国や台湾など東アジアの民俗を対象とする研究が盛んになっている。東アジア諸国でも自国の民俗研究の意識が高まり,民俗学の領域における日本と近隣諸国との相互交流も活発化している。さらに,民族学・人類学の立場から日本の民俗を東南アジアの民俗文化体系との関連で比較した成果もでている。民俗学の立場から他民族の民俗文化と比較する場合,諸民族間の類似点に注目し,それを生みはぐくんできた諸民族に共通した心性の普遍性を求める視点の設定が学問領域の独自性につながる。その場合,民俗学構造の類似が予想される漢字文化圏としての朝鮮半島・中国・台湾・東南アジアに比較の地域が限定されよう。

〔参考文献〕千葉徳爾地域研究と民俗学」『日本民俗学講座』5,1976,朝倉書房

宮田登『日本の民俗学』1978,講談社

鈴木満男「比較民俗学における〈比較〉の構造と視界」『思想』693,1982