●比較言語学 ひかくげんごがく
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歴史言語学の主要部門であり,類似する二つ以上の言語を比較して,それらの間に対応の関係を見出し,共通基語すなわち祖語を再建することによって,言語間の同族性や相違,系統関係,歴史的変化あるいは言語全般に共通する事実などを明究しようとする言語学の一分野である。研究の方法は,複数の言語をとりあげて,類型論的な比較を行う対照文法ではなくて,類縁関係あるいは同系統に属する言語についての比較文法である。かつては比較文法を,比較文献学と呼びならわしていた。【沿革】(1)1786年2月2日,インド駐在の法務官であるウィリアム・ジョーンズ(1746〜94)は,カルカッタでのアジア協会設立を記念する会で,「インド人について」という題の講演を行った。そのなかで彼は,次のような内容のことを述べた。古代インドの聖典の言語であるサンスクリットは,ギリシア語やラテン語よりも完全で精巧な言語である。しかも,これらの言語とは,動詞の語根や文法形式においても,偶然とは思えないほどに顕著な親近性があるので,これらが共通の源から生じたと考えざるをえない。また,ゴート語とケルト語も,元来はサンスクリットと共通の祖先をもつと考えられる,などの発表であった。これは,のちの比較言語学の発達の道を開いた画期的な発言であった。(2)「音対応の発見」19世紀に入って,デンマークのラスク(1787〜1832)が,ギリシア語とラテン語とのあいだに音韻推移の法則があることに気付いた。彼は,ある言語が他の言語と親族関係にあることを立証するためには,語彙よりも文法の一致がより確実な指針になると主張し,基本的な事実である“音対応”を発見した。(3)「グリムの法則」1822年に,ヤーコブ=グリム(1785〜1863)は,『Deutsche Grammatik』で,古典語とゲルマン語とのあいだの子音の対応関係に,音韻法則があることを発表した。これがグリムの法則であり,ドイツでは,ふつう,第一子音推移と呼びならわされている。彼は,ゲルマン語の中のギリシア語・ゴート語・古ドイツ語を比較して,ゲルマン語の子音に関する一定の「音韻推移」の現象を次のように示した。
(印欧基語)→(ゲルマン基語)
[1]p, t, k, kw →f, p, x(→h),xw(→hw)
[2]b,d,g →p, t, k
[3]bh,dh,gh →b,d,g
[4]s →s
しかし,グリムの法則にもいくつかの例外のあることが指摘されて,比較言語学はさらに進展した。
【言語の系統的分類】比較言語学の発達によって,多くの言語の系譜関係が明らかにされた結果,諸言語についての系統的分類が試みられた。とくに進化論的思想のアウグスト=シュライヒャー(1821〜68)は,1872年に彼の弟子であるヨハネス=シュミットは,波紋説を提唱して,系統樹の考え方そのものに反対した。これは,諸言語がある地点で変化が生じると,あたかも水の表面を叩いた時の波のように,中心から周辺へ及ぶものであるとする。この考え方は,方言周圏論に発展し,柳田国男によって日本へも招来され,方言地理学の分野で有効に活用されてきた。
【新しい時代】19世紀の終りに,青年文法学派の人々は,比較言語学の成果にもとづき,さらに音声生理学と心理学とを援用して,すべての言語変化を“音法則”と“類推”の原則によって説明する言語科学をうちたてた。しかし,ソシュールの「覚え書き」によって,それに疑問が投げかけられ,『一般言語学講義』の出現によって,20世紀の言語学が到来せしめられた。いま,言語学における比較言語学の方法と位置が確定され,比較文法は共時的な言語体系を考慮して進められるべき必然性をもつことになったのである。
〔参考文献〕風間喜代三『言語学の誕生―比較言語学小史―』1978
高津春繁『比較言語学』1950
国語学会『国語学大辞典』1980
W.W.ロック=ウッド,永野芳郎訳『比較言語学入門』1976
大塚高信・中島文雄『新英語学辞典』1982