●範例学習 はんれいがくしゅう
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教材の大量化・過剰化とそれにもとづく学力の質的低下を克服する方法として,1951年のチュービンゲン決議以後,西ドイツで提唱された学習方式のこと。日本の「基本的事項」の設定や「主題学習」の成立にも大きな影響を与えた。主として,ギムナジュウム(日本の高等学校に相当する)の「理科」「数学」など自然科学系科目の内容精選を図る目的で考案された学習方式である。チュービンゲン決議の一部を引用してみると,つぎのようなことが述べられている。〈……そこで到達した結論は,西ドイツの学校は,教材の過剰によって精神的な生活を窒息させられる危険にある,ということである。……学力は基礎的なものなしには不可能であり,……研究能力というものは物知り以上のものである。……学校を革新するためには……教材範囲を拡大することよりも,教授内容の本質的なものを,じゅうぶんに貫徹することが無条件に優先する〉。教授内容の本質的なものを,「例(Beispiel)」「範例(Exemplar)」を通して把握させる方式を設定しようとする決議であった。範例方式の認識の方法は,フッサールの「現象学」でいう「本質直観」という認識の仕方と深い関係があるといわれている。本質直観とは,一つの個物のなかに事物の本質を見出す,という認識の仕方のことである。範例方式の成立条件として,デルボラフは,つぎの4事項を示している。
[1]テーマ的選択。科学の系統的な知識としての教材を,網羅的に羅列していく従来のやり方に対して,問題テーマ的な教材を範例として選択しなければならない。
[2]発見的方法。既成の知識体系を権威的に注入伝達し,子どもが受動的にそれを受容して記憶していく伝統的な教授方式を排し,子どもが自己活動的に,発見的にテーマの解明を追求していかなければならない。
[3]発生的態度。既成の完成品としての知識を順を追って理解することをやめ,人間が初めて疑問を感し,問題をつかみとった原点まで押しもどして,考えさせなければならない。
[4]基礎教育的機能。[a]範例は,「基礎的」な機能を持たなければならない。「基礎的」とは,科学の全体系にとっても基礎的であり,同時に子どもが自主的に学習を進めていくことにも基礎的である,ということである。[b]範例は,「開示的」な aufschliessend 機能をもたなければならない。「開示的」とは,“他のもの,より以上のもの”を解明する働きをもつことをいう。1を聞いて10を知ることのできるような1,あるいは,1隅を知ることによって他の3隅を推察できるような1隅,でなければならない。[c]範例は,「照明的」な機能をもたなければならない。「照明的」とは,ヤスパースの実存哲学から援用した概念用語であるが,世界的存在としての自己理解を意味するものである。人間はこの世界でどんな地位を占めている存在なのか,人間と人間の外の世界とがどうかかわっているかを理解しなければならない。
デルボラフの範例方式は,単に科学の知識を獲得したり,科学的認識を育成するだけでなく,それらを通して人間の基本的資質を育てていこうとするものである。平田嘉三は,範例方式のもつこのような人間陶冶の機能を備えた学習のことを,1960年代に“範例学習”と呼称した。シュテンツェルもまた,範例方式の教授4段階を示しているが,その第4段階である「自己理解の段階」を重視した。いかにもドイツ教育学の伝統を継承する,人間教育をめざす“範例学習”である。
〔参考文献〕東京教育大学附属小学校『範例的方法による社会科教育』1970,東洋館出版