●ハムレット
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イギリスのエリザベス朝の劇作家ウィリアム=シェークスピア(1564〜1616)の『オセロー』『リア王』『マクベス』と並ぶ,四大悲劇の最初の作品。1600〜1601年の作とされ,正確には『デンマークの王子ハムレットの悲劇』という。父王を毒殺され,わが王位と愛する母ガートルードまで奪われたハムレットが,狂気を装って叔父クローディアスに復讐を企てるが,孤独な思考と逡巡を重ねるうちに逆に王とレアティーズに謀られて,課せられた「義」を果たせないまま非業の最期をとげる。4,000行にも及ぶ韻文と散文の錯綜した組立てには,中世的な復讐劇としての性格に加えて女性コンプレックス劇,また従来の秩序あるプトレマイオス的な世界観がモンテーニュやマキャヴェリの懐疑思想の影響のもとに変容していく宇宙思弁劇としての要素をもっている。したがって第3幕第1場の「第三独白」の冒頭は,復讐心情のリアリズムとして“生きるか死ぬか,それが問題だ”と訳されるが,思弁上のレトリックとしては“あるかないか,それが問題だ”と解するほうが正しい。『ハムレット』には,シェークスピア以前にトマス=キッド作の『原ハムレット』があり,両者とも1200年ごろのサクソ=グラマティクスの筆による『デンマーク史』と,1570年版のフランスのフランソワ=ド=ベルフォレストのその自由訳『悲劇物語』(英訳は1608年)を種本としていると考えられている。しかし,亡霊の出現・劇中劇・オフィーリアの狂乱,とくに五大独白の詩的表現などはすべてシェークスピアの創作である。ハムレットの最後の台詞が“その他は,すべて沈黙”ないし“沈黙こそ,わが安らぎ”と両様に解釈されるように,この劇には二重三重の含意が多く,作品全体として主人公の「義」を果たそうとして果たさず,「真実」を語ろうとして語らない論理的・感情的サスペンスに宙吊りされた一つの「壮大な謎」の劇となっている。