50音順    検 索

●人間生態学 にんげんせいたいがく

AD 

 生態学とは本来生物学の1分野で,動植物の生活と環境との関連,生物社会の組織とその変化などを扱う学問であったが,その対象を人間にまで拡大したものを人間生態学という。もちろん生物としての人間は特殊な存在であるから,人間生態学の内容もかなり多様なものととらえられている。一般的には次の3方面に大別される。[1]人文地理学的なアプローチ 人類と環境,とくに気候や風土の面から関係をみていこうとするもの。[2]社会学的なアプローチ とくにアメリカの社会学者のグループが提唱した,コミュニティーの構造を研究することを人類生態学とするもの。[3]人類学的なアプローチ これは先述のように生物を人類に置き換えたもの。人間が生活している環境は,単なる自然環境だけでなく,人間が創造した文化的環境をも含んでいる。したがってほかの動植物の生態学とは,方法論が大きく異なっているといえる。人文地理学的な観点にたてば,文化的環境と気候との関係は無視することはできないし,歴史的にみても気候が古代文明に与えた影響は計り知れない。人間が創造したはずの文明が,人間の手を離れて独り歩きをはじめたかのようにみえる今日では,この方面での人間生態学が大きな比重を占めていることはいうまでもない。しかし人間は,その生存を維持していくためには,自然的・文化社会的環境に適応していこうとするから,動植物生態学のような一定の共生的関係ができ上がってくる。たとえばモンゴルの遊牧社会は,ステップという自然環境のなかで人間と動物とが共生するという生活から発展したものである。そしてこの関係は,都市や農村の人口,その周辺の産業およびそのほかの社会の経済構造に大きく関係する。このため,この方面での人間生態学は,共生的関係を中心とした人間の地域社会,すなわちコミュニティーの構造を研究していこうとする広い意味での社会学的な側面をもっている。

 この側面からの人間生態学は,今日では社会学の分野で重要な位置を占めており,とくに国土および都市計画の部門では人間と地域とのより良い共生をめざすという意味からも大きな役割を担っている。けれども,人間も生物である以上,ある一定の生態系(エコシステム)の循環のなかから逃れることはできない。人間を生物の一部としてみていこうとする人間生態学は,何よりも自然的な環境と人間との共生をめざしている。先述したように人間は自然的な環境に適応しつつ独自の社会を形成してきたが,このことが世界の広い範囲にわたっての自然林の破壊(焼き畑やサバンナ化)をひきおこしたのも事実である。また高緯度地域の温暖化は,有史以来人間が適応しようとつとめてきた自然的な環境を,人間自身が変化させてしまうことがありうることを示している。さらに工業化の進展に伴う環境の破壊も看過することはできない問題である。人間も生態系の一部である以上,その生態系を人間自らが破壊してしまっている現状が,はたして人間生態学的にみて妥当であるかどうかは論を待たない。しかしながら人間が,この地球上の生物のうちで,環境についての客観的・科学的判断をもちうる唯一の生物であることは明らかである。ほかの生物との共生をめざしていく以上,人間は環境に対しての正しい適応を発見して,人間だけが利するような方向性に陥ることを避けなければならない。今日,全地球的な規模での環境破壊がすすんでいるが,人間が生態系の一部であるならば,こうした状況へのなんらかの解答を求めねばならない。このように人間生態学にはさまざまな方面があり,基本的な概念や方法論で統一がみられないむきがあるが,人間の生活自体の多様化のなかで,人間生態学の重要性はますます増していくといってよい。