●成らずの桃 ならずのもも
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その実を持ち主が惜しんで人に与えなかったため,花は咲くが実のならない桃の木。またそれにまつわる伝説。弘法伝説に結びつけるものが多い。実のならない植物の伝説としては,ほかに成らずの梅,成らずの李,成らずの柿,成らずの椿,成らずの梨などがある。岡山県小田郡曽能では昔,弘法大師が桃の実を一つ食べたいと望んだのに,持ち主の老婆が与えなかったので,以後この木には花が咲いても実がならないようになったという。愛知県宝飯郡小坂井町には,成らずの梅がある。昔,宮を建てて菟足(うたり)神社の神,菟足上足尼命(うながみのすくね)を迎えた伴氏が,蹴鞠の遊びをした折に,鞠を梅の木に蹴り上げて実を全部落としてしまった。それ以来,花は咲いても梅の実を結ばないという。一般とは違う植物の異常を,神の怒りによって説明しようとする常民の思想には,『万葉集』巻2の〈玉葛実成らぬ樹にはちはやぶる神ぞ著くといふ成らぬ樹ごとに〉に通じるものがあるように思われる。