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ナショナリズム

【帝国主義とナショナリズム】19世紀末から,欧米諸国は帝国主義競争の時代に入った。欧米諸国は資源や市場のために植民地を求めたが,それよりも,帝国主義を特色づけるのは海外投資で,その確保をめぐって激しい競争が生じ,第一次世界大戦を迎えた。欧米諸国は,もはや世界政策をとらない限り,列強として生き残ることが不可能になってきたことを物語っている。世界政策はイギリスの3C政策,フランスのアフリカ横断政策となって現れたが,出遅れたドイツやロシアでは,国外にいる同系民族をまきこんだパン=ゲルマン主義をかかげた3B政策とかパン=スラブ主義をとった南下政策の形をとり,イタリアでは未回収のイタリア(イレデンティズム)が主張された。いずれも,ナショナリズムが最も膨張的に発揮されたものである。帝国主義は被支配民族のナショナリズムにも刺激を与えることになる。海外投資の対象になった中国では,アヘン戦争以後,とりわけこの意識が強くなり,満州民族である清朝に対する漢民族の興漢運動と結びつき,一方では,近代化をめざす洋務運動にもなっていった。イギリスの支配を受けていたインドでは1857年に,セポイの反乱がおこり,最初の民族的反抗となった。

【ヴェルサイユ条約体制】ヴェルサイユ条約は,アメリカのウィルソン大統領が唱えた民族自決の原則を取りいれた。しかしそれは,戦勝国に適用されたのではなく,敗戦国であるオーストリアやトルコの分解のためだけに用いられた。その結果,ハンガリー,チェコスロヴァキア,ユーゴスラヴィア,ポーランドなどの独立にとどまり,アジアやアフリカの植民地支配は旧状と大差のないものか,みせかけの独立を与えられたのみであった。このような状態のなかで,独自の独立・民族運動を進めた代表的な人物がガンディーである。第一次世界大戦中,独立をほのめかしながら,インドの戦争協力をとりつけたイギリスは,戦後,民族運動弾圧のためのローラット法を発布し,自治に逆行するインド統治法を施行した。南アフリカの人種差別に対して闘ったガンディーは,戦後,国民会議派を率いて反英闘争にのりだした。その方法は徹底した非暴力・非協力・不服従で,断食と被逮捕をくりかえしたが屈せず,国産品愛用のスワデーシー,自治・独立のスワラージを貫き,1947年に独立許容宣言をとりつけた。しかし,その直後,狂信的ヒンドゥー教徒に暗殺された。インドがインド独自のナショナリズムを進めたのに対し,第一次世界大戦の敗戦国トルコは,ケマル=アタチュルクによって,ナショナリズムの確立を欧米流の近代化に求めた。トルコ国民党を率いたケマルはスルタン制のオスマン朝を倒してトルコ革命を進めた。その内容は政教を分離し,婦人のあり方をイスラーム教の規制から解放するとともに,教育や文字のローマ字化を進めるものである。その一方で,屈辱的なセーヴル条約を退けて,1923年に,ローザンヌ条約を結ぶのに成功し,一部の領土を回復したのみでなく,治外法権や軍備縮小の撤廃に成功した。

【大国と小国】第二次世界大戦が近づいてくると,ドイツ,イタリアとイギリス,フランスの大国は小国のナショナリズムを犠牲にして,戦争を回避しようとし,小国は大国ナショナリズムとは異なった手段でこれに対抗した。1920年にできた,チェコスロヴァキア,ユーゴスラヴィア,ルーマニアの小協商は,すでに小国ナショナリズムのあり方を暗示したもので,同盟の対象国はオーストリア,イタリア,ドイツと変化したが,小国が結束して大国に対抗し,しかもフランスの援助を背後にもつものであった。オーストリア併合後,ズデーテン割譲を要求したヒトラーに対し,英・仏・伊・独の四国は1938年9月,ミュンヘン会談を行ったが,イギリス,フランスを頼ったチェコスロヴァキアに対し,英・仏側は戦争を避けるために,宥和政策をとって,チェコスロヴァキアのためには戦わないとの態度をとった。これが1939年3月の,ドイツによるボヘミア・モラヴィア併合,チェコスロヴァキア解体への導火線となり,1939年4月の,イタリアによるアルバニア併合へと進んだ。さらに,ポーランド回廊を要求したドイツに対し,英・仏の援助を期待したポーランドは抵抗し,英・仏と相互援助条約を結んだが,ドイツの電撃戦に敗れた。この間,ソ連もまた,ポーランド,フィンランドを侵したのである。小国はこのように,大国の武力には圧倒されたのであるが,第二次世界大戦中に,ゲリラ戦を行い,また非協力・サボタージュなどの消極的抵抗を継続し,亡命政府や地下政府をつくって,それらの実施を組織的に進めていったのである。

【イデオロギーの問題】第二次世界大戦が終わるや,自由主義国家と社会主義国家群のあいだに,チャーチルのいう,鉄のカーテンが張られ,冷たい戦争が始まり,ソ連を中心にしたソ連・東欧経済相互援助会議COMECON),ワルシャワ条約機構がつくられ,一方では北大西洋条約機構(NATO)・太平洋安全保障条約ANZUS)がアメリカの封じ込め政策の一環として発足した。ドイツの,またベルリンの,事実上の東西分割は,これらを背景にしておこったし,朝鮮半島やヴェトナムの南北分断も同様である。これらは国際問題としての東西問題南北問題をもちこんだのであるが,同時に,イデオロギーによる国民の分断という,新しい問題を派生させ,イギリスでの北アイルランド問題,インドでのヒンドゥー教に対するイスラーム教徒,スペイン北西部を中心に,一部はフランスにもひろがるバスク族問題のような少数民族・宗教問題などとともに,現代の問題となり,テロ事件を多発させ,亡命者や難民を発生させる原因になっている。なお,一枚岩のように思われていた社会主義陣営のなかで,中ソ論争がおこり,相互に不信を表明するようになったのにも,ナショナリズムが働いているのを否定できない。

【アジア・アフリカの解放】第二次世界大戦後,アジアやアフリカ,あるいはイベロ=アメリカで,民族意識が強まり,植民地からの解放・独立がみられた。アジアでは,それぞれが長い解放闘争の歴史をもちつつ,南東アジアを中心に,民族独立の道を進むことになった。日本降伏2日後には,早くもインドネシア共和国がオランダから独立を宣言し,戦後フランスから独立しながら,南北に分かれていたヴェトナムは,長期にわたるヴェトナム戦争に耐えぬき,一つのヴェトナムになっていった。その他,ビルマ,カンボジア,ラオスなどでも,現在にいたるまで,多くの問題と紛争をかかえながら,民族の独立を,ひとまず果たした。97%が植民地であったアフリカは,アフリカの年といわれる1960年だけでも17の国が独立し,ほとんどが独立にむかった。しかし,南アフリカのように,今も人種差別のアパルトヘイト政策をとるところがある上に,かつての宗主国との資本・技術関係から抜けだせない国や自由主義体制をめざす国と社会主義体制にむかう国とがあり,米ソ対立がアフリカにも及び,第三勢力を指向する国も存在している。アフリカ諸国は一般的に,生産水準が低く,部族意識が強いので,統一的ナショナリズムが定着するのはむずかしい現状にあるといっても間違っていない。

【アラブ=ナショナリズム】アラブ=ナショナリズムはアラブ人を意識する人々のあいだのナショナリズムで,イスラーム教が中心的存在であるから,他のナショナリズムと異質のものである。アラブ人のなかにはキリスト教信者もいるので,イスラーム主義とはいえず,イスラーム教には多くの宗派があり,対立的でさえある。このナショナリズムは,アラビア半島から北アフリカにいたる広範な地域に存在する,異質なものを含んだナショナリズムといえる。アラブ=ナショナリズムの起源は,オスマン=トルコ末期の近代化運動にさかのぼることができる。ケマル=アタチュルクによるトルコ革命はこの線の上にでてきた。しかし,第二次世界大戦後になると,1946年アラブ連盟を結成して,アラブ人の主権と相互協力を強め,エジプトを中心に祖地占領者イスラエルを敵にした。パレスチナ戦争はこの構造のなかから生まれたが,1956年のスエズ国有化スエズ戦争のように,ヨーロッパ諸国を対象にしたアラブ民族主義も含まれている。アラブ=ナショナリズムは中東戦争やシリア,ヨルダン,イラン,イラクなどのめまぐるしい変転,さらには石油問題,米ソの支援競争のなかで,激しい動きをみせている。また,過激な手段として,ハイ=ジャックを用いることも,世界の注目を集めさせている。概略していえば,アラブ=ナショナリズムの動向は,アラビア語でアラブ全体のナショナリズムを意味するカウミーヤから,個別的国家主義をさすワタニーヤにむかっているといえる。

資源ナショナリズム発展途上国を中心に,重要で特殊な資源をナショナリズムの武器とする傾向が強まっている。これは1973年秋のアラブ石油輸出国機構の会議で,「石油を武器として,政治へ」とし,新植民地主義に対抗したのに始まる。それは世界に石油危機を与え,国際経済に大きな打撃を及ぼした。以来,コバルト,ウラン,マンガンなどの鉱物資源をもつ国に,その民族的主権を主張させるようになったにとどまらず,魚類などの海洋資源にも及び,領海域の拡大にも波及した。資源ナショナリズムは,広く第1次産業と国益を護るために使われ,国家戦略になって,ときには,国境紛争に走り,エゴイズムを主張させるようにさえなってきている。いずれにしても,ナショナリズムが,国益,人種,宗教,経済発展の段階などから複雑な形をとり,国際協調とのあいだの,適度なバランスが,ともすれば失われるのが,現代の大きな課題となっている。

〔参考文献〕ヘイズ,小林訳『近代民族主義史潮』

カー,大窪訳『ナショナリズムの発展』

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