●トルコ
AD
正称は Turkiye Cumhuriyeti。アジアの西端にあるアナトリア半島と,バルカン半島の一角を領土とする共和国。面積は77万4,810平方kmで,領土の97%がアジア側,3%がヨーロッパ側にある。人口は約4,500万人(1984現在)で,92%がトルコ民族,少数民族としてクルド人・アルメニア人・ギリシア人・ユダヤ人がいる。トルコ民族の90%はスンナ派イスラーム教徒だが,憲法で信教の自由は保証され,イスラーム教は1928年に非国教化され,政教分離が確立している。首都はアンカラ。公用語はトルコ語。政体は議会制民主主義。1952年以来,北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。【国土・自然】ヨーロッパ領とアジア領を隔てるのは,北から順にボスポラス海峡・マルマラ内海・ダーダネルス海峡であるが,ボスポラス海峡は幅1km弱〜2km,ダーダネルス海峡は幅2〜6kmしかなく,黒海と地中海を結ぶ航路として戦略上重要な地位を占めている。アジア側の国境は東部山岳地帯であり,ソヴィエト・イラン・イラク・シリアと国境を接し,ヨーロッパ側ではギリシア・ブルガリアと国境を接している。国土の大半を占めるアナトリア半島は平均高度約1,000mの高原で,北部に黒海山脈,東部にノアの箱舟伝説で名高いアララット山(高度5,165m)をはじめ高山地帯,南部にトロス山脈があるため,内陸部には海風が届かず,年間降雨量200〜600mmで乾燥度が高い。一方,黒海・地中海・マルマラ内海の沿岸地帯は降雨量も多く,豊かな農業平野を形成している。気候は沿岸部では地中海性気候,内陸部は大陸性気候であり,一般的に秋冬は雨期,春夏は乾期である。河川は数多いが,いずれも水量は少ない。
【産業・経済】国民の約60%が農牧民で,小麦を中心とする穀類・綿花・タバコ・オリーブ・果実を生産し,いずれも自給を超えて輸出品となっている。とくにトルコ=タバコは昔から名高い。家畜は羊が主だが,山羊・牛・ニワトリの生育も盛んであり,羊肉はトルコ人の食生活に欠かせない。なお,大半の国民がイスラーム教徒でありながら,昔から飲酒には寛大で,国民酒というべきものは薬草入りのブランディ“ラク酒”であり,酒税収入が国税において重要な比率を占めている。鉱業では,石油が自給率約30%であるが,マンガン・クローム・亜鉛・石炭・鉄などは世界的産出量がある。工業はトルコ共和国建国者ケマル=パシャ(アタチュルク,トルコの尊父の称号)が,1923年に帝政を打倒して以来,国営企業を中心に発展し,軽工業・重工業とも中近東世界第1の生産力をもっている。だが,品質その他から国際的競争力は弱く,めざす工業国家への道は遠い。とくに1973年の石油危機以来,国家経済は赤字をつづけ,1980年の軍事政権成立まで,毎年100%を超すインフレとなった。同軍事政権は民政委管(1983)までのあいだにインフレを毎年30%台に抑制したが,通貨であるトルコ=リラの切り下げがたびたび行われ,対米ドルのレートは石油危機以前の1ドル=15リラから,350リラ(1984)まで下落した。トルコ経済を支える柱の一つは西ドイツを中心とする海外出稼ぎ労働者の本国送金で,1984年現在で約130万人が先進諸国で働いている。
【政治】1960年に政情不安定から共和制史上最初の軍事政権が生まれたが,1年後に民政が復活した。しかし,その後20年間,議会で絶対多数を占める政党はなく,つねに連立政権が成立,与党間の対立で崩壊というパターンを繰り返した。とくに1970年代は左右勢力のテロ合戦に明け暮れ,ついに1980年9月に軍部がクーデタで政権をとった。この軍事政権は1983年末に民政委管を行ったが,その際の総選挙でも議会の過半数を占める政党は出現せず,政情は不安定なままである(1984現在)。
【歴史】トルコ共和国は13世紀に建国し,16世紀には3大陸にまたがる大国となったオスマン=トルコ帝国の後身である。第一次世界大戦に敗北し,連合国間で国土を分割される直前となったトルコを,トルコ国民軍を創設し,4年にわたる戦いで独立を回復したのがケマル=パシャであった。彼は戦勝後,皇帝政府を倒して共和制に改め(1923),初代大統領としてイスラーム教を非国教化したり,初等教育の義務化・ローマ字の採用・女性参政権・憲法をはじめ全法律の非イスラーム化・工業の育成など,一連の文化革命を強行し,トルコの近代化を行い,“トルコ共和国の尊父”として没後約半世紀の今なお国民から神聖視されている。