●動物報恩譚 どうぶつほうおんたん
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動物の報恩モチーフをもった昔話の総称。動物の恩返しによって,ある人物に富や幸運が授かるといった内容を骨子としている。関敬吾は『日本昔話大成』で,本格昔話のなかに動物報恩の項目を用いて,次の昔話をあげている。「狼報恩」「鶏報恩」「猫檀家」「猫又屋敷」「鼠退治」「絵猫と鼠」「猿報恩」「報恩動物」「恩知らずの人」「忠義な犬」「枯骨報恩」「文福茶釜」「狐と博労」「狐遊女」。これらは,いずれも報恩モチーフを中心とした昔話である。「狼報恩」の昔話では,ある男が喉に棘をさした狼に出会い,それを取ってあげる。その男が森で狼に囲まれたとき,助けられた狼が救出してくれるという内容である。男と狼は,偶然に出会い,救出してやるのに対して報恩するという形で,対等の立場に置かれている。「忠義な犬」の昔話は,飼われていた猟犬が野宿したときに,主人にむかって激しく吠えたてる。飼い主は,千匹鹿を獲ったら主人に刃向かうという言い伝えを思い出し,犬の首を切る。するとその首が飛び上がり,岩の上から主人を狙っていた蛇に噛みついて殺す。事情を知った飼い主は手厚く葬り,犬の墓を立てて供養するという内容である。ここでは主人と飼犬という緊密な関係が,命を捨ててまで飼ってくれた恩に報いるという壮絶な展開をみせているが,しかし動物と人間とは真に打ち解けた親密な間柄とはいえない。たがいに意思の疎通を欠いたままである。つまり飼育に対する報恩といった形の,一義的な契約関係で結ばれているといってよい。その意味では,これらの昔話における人間と動物は,現実の関係をなんら超えるものではない。このことは,報恩という行為そのものだけが強く意識されるところからくるものであり,ここに報恩モチーフの特徴をみることができる。下等な動物でさえ恩を忘れないのに,まして人間は,といった意味合いの教訓性が強く打ち出されているのである。【異類婚姻譚にみる報恩】同じく報恩モチーフをもちながら,そのテーマ性において異なった昔話がある。先にあげた『日本昔話大成』の異類婚姻に類別される昔話で,おもなものをあげると,「蛙報恩」「鴻の卵」「蟹報恩」「狼報恩」「蛙女房」「蛤女房」「魚女房」「鶴女房」「忠義な犬」などがある。これらの昔話が前の例と違うのは,いずれも婚姻と深い関係をもつことと,動物が恩返しをする際に,人間に姿を変えて登場することである。とくに異類女房の昔話では,動物が人間の女性に化身してその女房となり,豊かな生活を招来することになる。その婚姻は究極には破局することになるが,ここでの動物と人間の関係は,救助に対するその代償としての報恩という一義的なつながりを超えて,本来は結婚を媒介としたところの交渉をもつ運命にある間柄といえる。その意味では,救助・報恩モチーフは単にそのきっかけをつくったにすぎない。つまり,動物と人間の結婚というイメージの与える異常性・不自然さを和らげるために導入されたものである。ヨーロッパの昔話にも,動物と人間との結婚をテーマとした昔話はあるが,それが報恩という形をとるのはみられない。日本の昔話の特色になるが,これなどは報恩モチーフの新たな展開といえる。今まであげた昔話以外にも動物報恩譚といえる昔話がある。たとえば異類婚姻譚・「糠福米福」「鼠浄土」「舌切雀」「鳥呑爺」などがある。ここに出てくる動物たちは救助されたから報恩するというのではなく,突然に登場して主人公の援助をし,富や幸運をもたらすという存在である。ここでの動物と人間との関係は,契約関係でも深い交渉をもつ関係でもなく,特定の人間とそれに富・幸運をもたらす使者との関係である。神に選ばれた特別の人間が富や幸運を得るというモチーフは,説話の古い根源的な要素である。現行の報恩モチーフの昔話は,ここに出発点をもっていると思われる。それが現実社会のなかで種々の変化を強いられてきたものと想定される。
〔参考文献〕関敬吾『日本昔話大成』6,1978,角川書店