●唐詩 とうし
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世に漢史,唐詩,宋文,元曲と称せられるように,唐代文学を代表するのが詩であり,また中国の詩の最も秀逸なのが唐詩である。詩人の数,作品の数においても歴代で群を抜き,宋の計有功撰『唐詩紀事』にあげる詩人は1,150人,清の康煕帝勅撰『全唐詩』に至っては2,800余人,4万9,000余首をおさめている。また,詩型も唐詩においてあらゆる形体が出そろい,かつ完成された。形体は古詩と近体詩に大別される。近体詩は平仄(ひょうそく)や韻律などの規則のある定型詩で,律詩・絶句がこれである。律詩の詩型は初唐期のチンセンキ※注1※・宋之問らにより完成され,絶句の詩型の完成も唐代になってからで,盛唐期の王昌齢・李白は絶句の最高峰である。唐代に近体詩が完成された背景として,科挙(貢挙)で作詩が重視され,厳密な押韻が求められたことがあげられ,これがまた唐詩の声調の優麗さの因ともなっている。古詩は近体詩のごとき厳格な規則を無視した比較的自由な型式で,それゆえに社会諷刺や批判精神が吐露されるのは古詩型式が多く,李白・杜甫に始まるものとされる。文学史の上からは,唐代約300年を4期に分ける。国初から睿宗期までの約100年を初唐といい,王勃・楊烱・盧照鄰・駱賓王を初唐の四傑と称す。この時期の詩は六朝以来の五言詩を中心とする型式美から完全には脱していないが,陳子昂は詩風を漢魏へかえすことで作詩に新しい生命力を吹き込み,チンセンキ※注1※・宋之問は律詩の形体を完成させ,その後の唐詩の新しい展開の基礎ができ上がった。初唐にはほかに杜審言・リキョウ※注2※・張説・張九齢らがいる。玄宗・粛宗期の約50年を盛唐といい,唐の極盛期という時代性が作詩にも見事に反映している。初唐における六朝詩の型式美の超克を意図した復古の作詩の試みや近体詩の完成のあとを受け,最もみのり豊かな時期である。自由と情熱に満ちた詩的幻想の世界に生の喜びをうたいあげる浪漫的な李白,現実を直視して誠実・雄渾な気魄をこめて内面的苦悩をも律詩に凝結させた杜甫,この二人は唐代だけでなく,全時代の頂点として詩聖と称せられる。仏教にも造詣の深かった王維,そして孟浩然は伝統的な自然詩の分野に新境地を開いた。岑参・高適は辺境のエキゾチックな生活や風物をうたい,王昌齢は李白とともに絶句の型式・内容ともの完成者と目せられる。唐詩は盛唐期に事物の描写だけでなく,人間の内面的感情をも見事に表現する作風を生み,その韻律の美しさと相まって,最高の発展段階に達した。代宗から文宗期までの約70年を中唐という。安史の乱後の厳しい時代相を反映して,盛唐期に比べると詩人の数は多いものの,内容的にはかなり遜色がある。大暦の十才人と称せられる人たちも出ているが,やはり中唐を代表するのは白居易とゲンシン※注3※である。宋の蘇軾は“元軽白俗”と低い評価を下すが,その平易な表現と身近な対象にもとづく作風により幅広く愛誦された。庶民層の台頭により詩歌の受容者層が著しく拡大したことが背景にある。この時期に属する詩人には他に蕭穎士・劉長卿・元結・韋応物・権徳輿・韓愈・王建・劉禹錫・柳宗元・寛島・李賀らをあげることができる。文宗以後唐末までの約80年を晩唐という。唐の衰退を微妙に感じとった耽美的・デカダンス的な作風に特徴がある。その代表は李商隠で,自然をかりて自己の心情を記した技巧的な抒情性がきわだっている。オンテイイン※注4※は愛情の微妙な心理的あやをうたう艶体の詩が多い。杜牧は前2者の技巧性と繊細華麗さとはやや異なり,情致豪遭と称せられる詩風を特徴とし,なお中唐の平易さの風を継ぐところがある。このほか,晩唐期に属する詩人には許渾・陸亀蒙・羅隠・皮日休・司空図らが有名である。またこの時期には独特の詩風を展開した禅僧が登場してくる。釈皎然・釈貫休らがその代表である。
〔参考文献〕小川環樹『唐詩概説』中国詩人選集,1958,岩波書店
小川環樹編『唐代の詩人−−その伝記』1975,大修館書店
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