●洞穴絵画 どうけつかいが
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ほら穴の天井や壁に描かれた絵画をさし,洞窟画・洞窟絵画と同義。洞窟美術の主要をなす。先史時代の遺跡にみられるもので,人類最古の絵画とされ,絵画の歴史の出発点に位置づけられる。西ヨーロッパでしばしば発見されてきたが,とくにフランス西南部のドルドーニュ地方とスペイン北部のカンタブリア地方に多く発掘されたことから,フランコ=カンタブリア芸術とも呼ばれ,さらに旧石器時代後期のものとみなされるこれらの絵画の成立年代は,オーリニャック文化期とマドレーヌ文化期とに類別されて研究がすすめられている。オーリニャック文化期とは,前3万年から前2万年ごろまでの期間をさしていうが,由来はフランスのオーリニャック洞窟の発見(1860)にちなんで命名され,洞穴絵画はおよそこの時代に初めて描かれたものと推定されている。先史人の最初の自己表現にふさわしく,線描・点描を主として輪郭をかたどったものが多い。描かれる対象は牛・馬・鹿などの動物や,簡単な人間の手の形など,概して単純・素朴を特徴とする。しかしながら,芸術作品として高く評価されている。フランスのペク=メルル洞窟の壁画や,スペインのラス=チメネアス洞窟のそれがここに区分される。
つづくマドレーヌ文化期は,前2万年から前1万年ごろの期間とされるが,オーリニャックと同様に,フランスのドルドーニュ県ラ=マドレーヌ遺跡にもとづいている。ここでは,オーリニャック文化を基盤としてその延長に発展したことを説明できる。フランスには,美しい形を鮮やかに残している遺跡として有名な,ラスコー洞窟をはじめ,フォン=ド=ゴーム洞窟・ロルテ洞窟などの絵画があり,スペインには旧石器時代を代表する洞窟絵画で知られるアルタミラ,エル=カスリチョ洞窟の絵画があげられ,イタリアのシチリアで発見されているアダウラ洞窟のそれもマドレーヌ期のものとされる。マドレーヌ期になると,すでに黒や赤・黄などの色彩も用いられ,画題も動物・獣類に加えて人間も取り上げられ,それは,人の祈る姿・踊る姿などと共に狩猟の情景を思わせる絵もあり,動きの瞬間をとらえて表現されている。1879年に発見されたアルタミラ洞窟には,野牛を中心に馬・イノシシとみられる25点の絵が残り,1940年に発見されたラスコー洞窟の絵は,当初オーリニャック期のものとされてきたが,出土検査の結果マドレーヌ期のものであることが確認された経緯をもつ。
オーリニャック期といい,マドレーヌ期と称して大別し,いまさらにそれを概括してみると,これらの絵画は,みなそれぞれの洞窟の奥深い部分に描かれていること,動物・獣・人間の姿態が主たる対象であること,線描・点描に始まり,平塗りから濃淡をほどこした彩色画まで,その形は大小さまざまのものがあるが写実的であることなどがわかる。ここに描かれた動物から,旧石器時代後期の人類が,自然のほら穴,主として横穴を住居として,狩猟や採集を中心に生活を営んでいたことと結びつけて考えることができる。生存の必要上おきる装飾願望や,狩猟の成功を願う呪術的祈念など,揮然とした内的世界の自己表出として,壁画が描かれたのであろう。壁に描かれた絵にむかって,狩猟が豊かになることを願う光景は容易に想像することができる。オーリニャック・マドレーヌ期をはなれて,中石器時代末期から,新石期時代にかけては,東スペイン・北アフリカに残される岩壁画があり,そこでは,動物の躍動する様子もとらえられ,仮面をかぶった人物,狩猟や戦闘場面などもみられ,対象も技法の上でもフランコ=カンタブリア美術より多様化されているが,洞穴絵画と区別してみる考え方もあり,まだ一定していない。さらに,中国やインドに残る洞窟の仏画もあるが現在は区別されている。洞窟遺跡の研究は未知の分野もあり課題の多いなかで,これら残された洞穴絵画は,美術上,絵画としての評価はもとより,考古学の上でも貴重な資料となっている。