●ドイツ啓蒙主義 ドイツけいもうしゅぎ
ヨーロッパ ドイツ連邦共和国 AD
市民革命を経たイギリスに発祥した啓蒙主義運動は,世界の合理的解明の信奉を基本姿勢とし,フランスで強力に発展した。人間の行為を律する尺度として,理性が最高の価値をもった。そしてまた理性は宗教的偏見に対置され,合理主義にもとづく進歩が信奉され,現世における幸福が追求された。この思想はディドロなど百科全書派のフランスの啓蒙主義者を通してドイツに移入された。ドイツではフランスやイギリスにみられるような社会的ならびに政治的影響を及ぼす力には至らなかったが,ドイツ独自の精神的発展をとげた。この運動を受け入れたドイツではバロック的思想もまだ影響力をもち,それに感情に重きを置く敬虔主義の宗教運動が存在していた。それらとの拮抗関係のもとで,啓蒙主義は18世紀以降のドイツ精神史に強い影響を及ぼし,とくに啓蒙主義の人間を中心とする思想と進歩の観念は,のちにドイツ・古典主義を展開させる先駆的推進力となった。〈啓蒙とは,人間が自己の未成年の状態から脱却することである〉とのカントのことば(『啓蒙とは何か』)は,市民階級がしだいに社会的実効性を得つつあったこの時代の思潮を的確に表現している。いまだ啓蒙されない状態にあるのを自覚した市民の啓蒙主義への熱望から,政治とは無関係に人間教育そのものを重視する教育的傾向が生まれ,また市民の教養を高める目的で発行された道徳週刊誌を通して,市民階級が芸術・文化の領域に登場してきた。文学面における啓蒙主義の影響は,ゴットシェト,レッシング,ヅルツァーに代表される文学批評の隆盛である。また教訓詩もこの時代の特徴である。またリチャードソンに代表されるイギリスの市民小説はフランスにおいてディドロに継承され,ドイツで翻訳され市民の教化をはかることになった。この傾向を受け継ぐ長編小説は,経験主義と敬虔主義の影響を受けて,センチメンタルな家庭小説から,ゲラート,ヴィーラントなどに代表される魂の発展を語る心理小説へと発展していった。演劇もまたこの時代の市民階級の教化の場であった。王侯・貴族のみが悲劇の主人公であり得るという見解がいまだ演劇界に影響を及ぼしていたなかで,イギリスのリロの『ロンドンの商人』をはじめとして,ディドロ,レッシングとつづく市民を主人公とする市民悲劇の発達は,この時代の市民階級の発達と強く結びついた現象である。市民は舞台での同じ身分の主人公の悲運に涙を流しながら教訓を受け取る。劇場が市民の道徳的教化の場となったことは,啓蒙主義の特質である。