●腸内細菌 ちょうないさいきん
AD
ヒトや動物の腸内に生息している細菌を「腸内細菌」または「腸内菌」といい,このような細菌の集団を「腸内細菌叢(相)」「腸内菌叢(相)」あるいは「腸内フローラ」と呼ぶ。なお,大腸菌・赤痢菌・サルモネラ・変形菌などを含む一群の細菌群を,分類学上腸内細菌という場合があるが,これは,正確には「腸内細菌科」と呼ぶべきものである。【種類】腸内細菌としておもに検出される細菌の種類を科または属のレベルで分類するとバクテロイデス・ユウバクテリウム・ビフィズス菌・嫌気性レンサ球菌・嫌気性ラセン菌・クロストリジウム・乳酸桿菌・大腸菌を代表する腸内細菌科,腸球菌を含むレンサ球菌・ブドウ球菌・ベーヨネラ巨大球菌・バチルス・酵母などがあり,これらはさらに多くの種や生物型に細分化され,1人のヒトの糞便から検出される細菌の種類を細かく分類すると100種以上に達すると推定される。
【腸管各部の菌叢の構成】健康な成人では図に示すように,腸管上部ではレンサ球菌・乳酸桿菌・ベーヨネラなどが腸内容1g当たり104以下しか検出されず,腸管下部にいくと細菌数は急激に増加し,盲腸から結腸・直腸における細菌数は腸内容1 g当たり1011に達し,バクテロイデス・ビフィズス菌・ユウバクテリウム・クロストリジウムなどの嫌気性菌が最優勢で,大腸菌・レンサ球菌・乳酸桿菌・ベーヨネラ・ブドウ球菌は105〜108程度しか検出されない。ウェルシュ菌や緑膿藍・が検出されることもあるが,老人以外は104以下である場合が多い。
【年齢との関係】乳児の腸内菌叢の構成は比較的単純で,糞便ではビフィズス菌が最優勢に検出され,これに伴って大腸菌や腸球菌が107〜109/g程度検出される。また,一般に,人工栄養児では母乳栄養児より大腸菌・腸球菌・ビフィズス菌以外の嫌気性菌の菌数が高い。離乳期を過ぎるとバクテロイデス・ユウバクテリウム・嫌気性レンサ球菌が急に増加してビフィズス菌の菌数を上回るようになり,幼児から壮年までこのバランスを維持する。しかし,健康な人では,ビフィズス菌が優勢菌の一つとして検出されるのがふつうであり,これが健康のバロメーターともいえる。老年になると,ビフィズス菌が減少または消失し,ウェルシュ菌・大腸菌が増加してくる傾向がみられる。
【変動要因】腸内菌叢の構成はかなり安定しているが,食餌・抗生物質・ストレス・手術・疾病などによって変動する。
【健康とのかかわり合い】腸内細菌は食餌成分や消化管に分泌または排泄された生体成分を栄養として増殖し,各種の代謝産物を生成する。これらの物質は宿主にとって有益・有実の両面に作用する。栄養の面では腸内細菌は消化吸収の補助的役割を果たし,宿主の酵素の働かない食物繊維の一部を分解し,生成された有機酸は腸蠕動を刺激し,吸収されて宿主のエネルギー源となる。また,腸内細菌によって合成されたビタミンのうち,ビタミンB1・B2,ナイアシン,ビタミンK,葉酸などの一部は宿主に利用されていると考えられる。腸内に住みついている腸内常在菌は,外来菌の腸管感染の防御に役立っており,さらに,ある種の腸内細菌の菌体成分は宿主の免疫機能を刺激し,生体の免疫力を高めると思われる。しかし,一方,腸内細菌のなかには潜在的に病原性をもったものもあって,抗生物質の投与を受け腸内菌叢が攪乱されたり,宿主の抵抗力が減退したとき病原性を発揮し,各種臓器に侵入して自発性感染をおこしたり,胃腸炎をおこしたりする。腸内細菌のなかには,アミン・アンモニア・インドール・フェノール・硫化水素などの腐敗産物,毒素・発癌物質などを生成するものがあって,長期間のうちには宿主の癌・肝臓病・動脈硬化・免疫力の減退などに関係する。
〔参考文献〕光岡知足『腸内細菌の話』1978,岩波書店
光岡知足『腸内菌の世界』1948,教育出版センター
![]()