●地域研究 ちいきけんきゅう
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世界の各地・各国,とくに文化・社会・政治体系制などを異にする国々について,実地調査にもとづいた正確な知見を得ることを目的にする組織的な研究。文部省学術審議会学術交流特別委員会によれば,〈ある地域について,自然環境を含めて,その社会・文化を全体として深く理解することを目的とする学際的・総合的な研究〉と定義されている。その意義については,〈地域研究を発展させることにより,異文明・異文化への関心と理解が深まり,我が国が諸外国との共存を図っていくうえでの重要な基礎が築かれることが期待される〉と記されている。【地域研究の歴史】地域研究は,1930年代にアメリカで生まれ,第二次世界大戦中,外国に関するエキスパートを必要とする国策とあいまって,連邦基金により地域研究プログラムの拡充と新設が行われた。戦後も世界のリーダーとしてのアメリカの立場から,地域研究は必要不可欠であった。1958年には国防教育法が成立し,地域研究プログラムと大学レベルの語学教育に多額の資金が投じられた。これによって地域研究は,プログラムが夏期講座にまで拡大し,中等学校教員も地域研究プログラムで研修することが可能になった。そのほか,フォード財団・ロックフェラー財団・カーネギー財団などの民間資金の援助が大学レベルでの地域研究プログラムに与えられ,各州政府も地域研究に積極的な姿勢を示した。こうして1960年代には,アメリカ各地の大学で多数のプログラムが設定されるとともに,多くの大学にその大学の得意とする地域を対象とした研究所や研究センターが設けられた。地域研究の当初の焦点は,世界の他地域の人々との関係において,いかにしてアメリカ人が効果的に行動できるかということであった。しかし,それではとくに教育の場においては,異文化への学生の観点が,つねに自国文化を基準として判断してしまい,ときとして,十分な理解を行えないという問題点が生じた。そこで現在では,地域研究を特殊化されたプログラムとしてではなく,教養教育の根幹として強く認識されるようになった。すなわち,アメリカ中心の世界から,アメリカもその他の地域も同じ人間社会という一つの社会の一員であるという認識の変化である。ラロルド=テーラーは,1968年にアメリカ教育大学協会学・ニューヨーク大学などでも地域での研究のなかで,地域研究は,もはや社会がローカルな尺度から地球的尺度に変化している今日では,すべての人の教育的な問題であると述べている。したがって,地域研究は,どちらかというと政治的な関係の重視から,cross-cultural なより広い理解をめざす方向にむかうようになった。とくに,さまざまな社会を成立させ機能させている,風俗・習慣・信条・理念などの統合された一つのパターンとしての文化に重点が置かれている。この傾向は,1966年の国際教育法の成立によって,一層,明確なものとなった。一つの統合社会理解の重要な指標である文化の研究には,政治学・歴史学・地理学・考古学・経済学など多くの学問の協力が必要なことはいうまでもない。また大学レベルでは,外国語の集中的な訓練がぜひとも必要である。教育の場においては,初等・中等教育段階では歴史や地理からのアプローチにとどまり,大学段階で初めて地域研究のアプローチに達する。しかし,初等・中等教育段階でのアプローチも,国際理解と自国文化理解を目的としている以上,広義の地域研究であり,狭義の地域研究の重要なステップを形成しているといえよう。
【アメリカの地域研究】アメリカにおける地域研究のプログラムは,学部・大学院(修士・博士)・研究者のすべての段階に設置されている。1970年代のアメリカの大学における地域研究プログラムの例をいくつかあげてみる。[1]カリフォルニア大学バークレー分校,中国研究センター,日本・朝鮮研究センター,ラテンアメリカ研究センター,東ヨーロッパ研究センター,南アジア研究センター,東南アジア研究センター,[2]カリフォルニア大学ロサンゼルス分校,アフリカ地域研究科,インド・ヨーロッパ研究科,イスラム研究科,ラテンアメリカ研究科,[3]シカゴ大学,極東研究科(中国・日本),ロシア文化研究科,[4]コロンビア大学,アフリカ研究所,東アジア研究所,ラテンアメリカ研究所,西ヨーロッパ研究所(フランス・ドイツ),東中央ヨーロッパ研究所,東イスラエルおよびユダヤ研究所,南アジア研究所などで,そのほか,コーネル大学,ハーバード大学,イリノイ大学,ミシガン大学,プリンストン大学,スタンフォード大学,ワシントン大学,アイオワ大学,ニューヨーク大学等でも地域研究のプログラムがある(『地域研究』文部省科学研究費補助金総合研究(B)「発展途上国との学術協力の現状とその在り方に関する基礎的研究」研究代表者・市川正巳,1983)。このことから,アメリカにおいて現在も,地域研究が全国規模でさかんに行われ,多くの大学にその大学の得意とする地域を対象とした研究所や研究センターが設けられていることがわかる。
【地域科学】なお,アメリカには,地域研究と類似した地域科学という学問がある。これは,今日の地域問題は,経済学,社会学,地理学,都市工学,人類学などの個別的な学問の単なる集合では解決されないことから,伝統的諸科学の理論や方法の総合によって生まれた新しい学問分野である。提唱者はウォルター=アイザードであり,人間相互間や人間と自然環境との空間的関係に焦点をあて,理論構成において数学的モデルに強く依存している。したがって地域科学は,地域研究とは目的も方法も異にする学問である。
【日本の地域研究】では,日本の大学における地域研究の実状はどうであるかというと,国立大学の場合,学部レベルでの地域研究コースが設置されている大学は,筑波大学,東京大学,広島大学,熊本大学,三重大学の5大学のみであり,大学院では筑波大学,東京外国語大学,広島大学の3大学とさらに少なくなり,いずれも修士課程のみである。研究所・研究センターでは,北海道大学,筑波大学,東京大学,東京外国語大学,京都大学,広島大学の6大学であり,大学以外では国立極地研究所,国立民族学博物館の2研究所がある(前記『地域研究』)。このうち筑波大学は,1978〜82年のプロジェクトであるので,常時,研究を行っている研究所・研究センターをもつ大学は5大学である。しかも,アメリカの大学のごとく,世界の多くの地域をカバーするのではなく,研究所・研究センターの対象地域は限定されている。しかし,京都大学の東南アジア研究センターは,欧米の地域研究センターではあまり例がない農学,土壌学,水利学,自然地理学など,自然科学者を専任のスタッフにもっていることで特色があり,他大学でもそれぞれ特色ある研究が行われ,成果をあげている。
【日本における地域研究推進の方策】日本における地域研究推進の当面の方策について,前記の学術審議会学術国際交流特別委員会は,四つの具体的方策をあげている。まず,対象地域についての考え方,対象地域としては広く世界の各地域を考えるべきであるが,従来,日本において学問的蓄積の少なかった中近東やラテンアメリカなどに重点をおく。具体的方策として,[1]研究連絡の強化のため,科研費により研究グループの育成を図り,既存の研究所・センター間の研究連絡機能を強化する,[2]当該地域の言語の習熟のため,大学における諸言語の教育・研究,研究機関における研修の拡充を図る,[3]現地調査の充実のため,現地における十分な調査の配慮,研究機関の現地拠点の拡充等を図る。[4]若手研究者の現地への長期派遣の拡充と推進をはかる,の4点があげられている。
国際化時代にあって,日本と世界の諸地域との関係は,一層密接になり,資源小国である日本は生活必需品のほとんどを外国に依存している。こうした状況からも,今後,日本において地域研究がますます推進される必要がある。