50音順    検 索

●地域学習 ちいきがくしゅう

アジア 日本 AD 

 「社会科」における地域学習の占める位置は高い。なぜなら,「社会科」は子供の経験を重視する教育観に立っているからである。地域は,子供の経験の場であり,直観を働かせ観察活動を行う場である。したがって,地域学習は,「社会科」学習の出発点となっている。

 地域学習に関する論・実践は二分して考えられる。第1は,地域学習を方法概念としてとらえる立場である。この立場は地域学習を通して,子供に他の社会事象を学習していく際の基礎を育成することを目的とする。すなわち,地域学習の場で,社会的見方や社会科学的方法のモデルを身につけさせようと意図している。そして,地域学習で習得した見方・方法を使用して,広い世界の社会事象を学習させようとするものである。この地域学習は,方法論的地域学習と呼ばれる。第2は,地域学習を目的概念としてとらえる立場である。この考え方は,地域学習を通して,地域自体を把握させることを目的とする。そして,地域を社会科学的に把握し,社会科学的立場から地域の課題を明らかにし,その解決のために努力できる子供を育成していこうとしている。また,このような学習を通して,地域に対する愛情を育て,地域のために働こうとする態度の育成もめざしている。この地域学習は,目的論的地域学習と呼ばれる。

 地域学習の学校教育への位置づけは,17世紀のコメニウスの直観と事物の観察を重視した地域学習の主張以来確立されてきた。コメニウス以後,ルソー,ペスタロッチが同じ方向での主張を展開し,地域学習は理論的にも確立されてきた。

【地域学習の位置】小学校「社会科」では,3・4年が地域学習として設定されている。ここでは,地域社会を自然環境,生産活動,消費生活,協力的活動,歴史的変化といった視点から解明させようとしている。そして,そのような学習活動を通して,地域社会の成員としての自覚・地域社会の発展を願う態度を育成することを意図している。5年生の農業・水産業・工業を取り扱う際には,具体的事例を取り上げて指導することが指示されている。この具体的事例が身近な地域から選択できるならば,より有効性の高い「社会科」授業が展開できる。ここでの地域学習は,明確に方法論的地域学習となる。中学校・高等学校の地域学習の位置は,小学校に比べて低い。両者とも,基本的には,地域調査方法の基本を習得させる場として,地域調査学習を展開している。したがって,小学校における社会認識を育成する場としての地域学習から,地理的手法を習得させる地域学習へ転換している。

地域教材の特質】「社会科」における地域学習の有効性は,次のような点から論じられている。第1には,地域に教材を求めれば,具体的事象を学習対象とすることができるので,子供にとって身近に感じられ,具体的思考ができるという点があげられる。一例として,工業用水の問題を考えてみよう。教科書事例の水島地区の高梁川(たかはしがわ)からの工業用水の取水では,具体的に思考することが困難である。それに対して,身近な地域に工業用水取水例があれば,豊富な思考場面が設定できる。たとえば,工業用水の取水による海水の混入,水位の低下などの問題の発生と農民の対応などの具体的素材が豊富に利用できる。第2には,地域教材は観察・見学が可能であるという点があげられる。この観察・見学に際しては,子供にとって未経験なものを観察・見学させるという方法だけでなく,日常身近にみているものを新しい視点から見直させるという指導も重要である。たとえば,子供が日常見慣れている小さな水路に対しても,教師がその機能に注目させる指導を展開すれば,まったく新しいものとしてみえてくるようになる。同じような水路にみえていたものが,用水路と排水路の区別があること,水路に設けられた堰(せき),水位の変化の意味などの新しい発見がなされてくる。観察・見学を生かした地域学習の展開こそ,「社会科」学習の真髄である。第3には,開かれた「社会科」教育の展開をする場は,地域教材のなかに最も優れたものがあることがあげられる。開かれた「社会科」教育の展開においては,複数の答えが認められ,価値観の違いによる立場の選択が子供に要求される。この場合に,子供の生活体験とかかわりのないところでの立場の選択の要求は,きれいごとの意見の対立で終わってしまうことが多い。それに対して,地域に教材を求めて開かれた「社会科」教育を展開すれば,直接自分の生活とかかわった具体的レベルでの立場の選択が求められ,認識の具体化が可能となる。たとえば,福井市の子供にとっては,新幹線の騒音公害の問題について論じるのでは具体的に考えることができない。ところが,福井市の街中に残って繊維を織り続けている中小工場の織機の騒音をめぐる論争であれば,友達の家が登場したり,場合によっては,騒音を出している側の家の子もいる。また,工場の近くにいて騒音に悩んでいる家の子もいるといったことから,具体的に論じることが可能である。「社会科」で養うことを要求されている価値判断能力は,このような具体的レベルで論じられる地域教材を使用して育成されることが適切である。第4には,地域に教材を求めた場合には,子供に資料の作成をさせることができるという点があげられる。一般の「社会科」の授業においては,予想をたてて問題を追求していく過程の検証資料は,多くの場合,教師によって与えられるし,せいぜい図書館で調べた資料を利用することとなる。これに対して,地域の問題を追求していく場合には,子供自身の手で資料を作成し,問題を追求していくことが可能である。たとえば,交通量・車の種類・時間帯による変化などの資料を作成して,街のなかを通っている道路の性格を明らかにしていく作業などはよく行われているものである。また,農作業時間と仕事の内容などを,アンケートや聴き取りの方法によって資料を作成し,地域の農業の性格を明らかにしていくことも可能であろう。既存の資料だけでは得られない生活に密着した資料を子供につくらせることは,「社会科」授業においては本質的に重要なものである。

【社会科の指導計画と地域学習】前述してきたように,地域学習は「社会科」指導において大いに有効性をもっている。しかし,「社会科」学習の始めから終わりまで地域学習で展開できるわけではない。多様な社会科学習のなかへ地域学習を適切に位置づけて,その有効性を生かしていくことが重要である。「社会科」の指導計画のなかに地域学習をどのように組み込むことができるかについて述べていこう。第1の型は,地域自体を明らかにすることを意図した指導計画である。“地域解明型”と呼ぶことができる。前述した小学校3・4年の地域学習は,この性格をもっている。第2は,教科書教材の導入として地域教材を組み込む型である。この型は小学校5年の産業学習でよく使用されている。たとえば,身近な地域の米づくりの学習をして問題点を拾い出し興味を喚起して,具体的授業展開は教科書教材で行う方法である。第3は,地域教材による学習を単元展開の基本として構成し,後に教科書教材へと進む型である。この型の地域学習は,社会認識形成の基本型として重要である。なぜならば,地域学習では,帰納的方法による社会的見方の指導を行い,教科書教材では,その見方を使用した演繹的説明の授業展開が可能であるからである。このように,思考方法を変えて「社会科」授業を展開していくことは,社会認識の定着をより強固にする働きをもっている。以上述べてきたように,地域学習は「社会科」授業のなかで中核的位置を占めている。研究の蓄積が期待されるところである。

〔参考文献〕平田嘉三他『社会科地域学習の授業モデル』1980,明治図書