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●大衆化社会 たいしゅうかしゃかい

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 産業社会や情報化社会などとともに現代社会を特徴づけるためのことばで,お互いを区別する標識を欠いた同質的な大衆的人間の出現によって特色づけられる社会,あるいは,一部の特権層のみが享受しえた文化や生活様式が広く大衆に開放されるようになった社会のことをいう。「大衆社会」とほぼ同義。

【成立と構造】大衆化社会は,資本主義の発達によってもたらされた。資本主義の発達は,それまで人々がそこに埋没して生きていた共同体の衰退をもたらした。共同体はそこに生まれた人間にとっては,一生をそのなかで過ごさねばならない宿命的なものであり,さまざまな拘束を伴う不自由な集団ではあったものの,反面,こうした共同体はそれに所属する人間にとっては,相互連帯や心の支えとなり,また自己のアイデンティティ(自分が何者であるかについての確証)のよりどころにもなった。ところが,大規模な市場機構が全社会を包摂しだすようになると,共同体はその経済基盤を奪われ,生活様式の指南力や成員に対する凝集力をも失うようになる。産業化の進展とともに人口も農村から都市に流出し,こうして共同体の拘束やしきたりから自由になった人々が都市に蝟集するようになる。人々は共同体から解放された。しかしこのことは逆に,人々がこれまで彼らを庇護し,その行動と思考の準拠枠を提供してくれていた拠点を失ったことを意味する。個々人は今や,そのアイデンティティと相互間のつながりの寄るべを失った匿名的でバラバラの原子として,巨大化した社会と組織に向き合わねばならなくなる。このように無定形で,同質的な量的存在としての大衆の出現を特徴とするのが大衆化社会である。

 この社会は政治的には大衆民主主義として,19世紀の市民的民主主義とは区別される。かつての市民的民主主義を担ったのは,教養と財産に恵まれ,理性的な討議によって世論を形成していく自律的な“公衆”であった。ところが,教育の普及による意識の向上と,社会運動の成果としての選挙権の拡大は,“大衆”の政治参加を可能にし,彼らを政治の主権者の地位に押し上げた。ところが政治機構は巨大化し,複雑であるため,思考と行動の合理的な準拠枠を欠く大衆は,民主政治の要である世論形成の主体にはなりえず,エリートによる操作と動員の対象,あるいは“政治的消費者”の地位に格下げされてしまう。

 こうした大衆操作やその動員にマス=メディアが果たす役割は大きい。大衆化社会の構造を特徴づけるのは,巨大な官僚制的組織とマス=メディアが果たす役割は大は効率性という観点から個々人の社会的相違を平準化し,彼を巨大な機構の歯車に仕立て上げることによってその無力感・無意味感の醸成に加担し,後者は世論操作や宣伝によって少数者への権力集中を容易化する。

【批判と弁護】以上のような問題点をもつ大衆化社会には,従来から多くの批判が寄せられている。代表的なものの一つは,大衆の登場をエリートの文化や生活様式を脅かし,破壊するものとして,恐怖と嫌悪のまなざしで眺める貴族主義的な批判であり,もう一つは,不安・孤独・疎外感に悩まされる大衆が“疑似共同体”のイデオロギーにつけこまれやすく,全体主義の好餌になりやすい点を指摘する民主主義的な批判である。しかし一方でまた,大衆化社会のこうした弱点を批判するよりも,それ以上に文化の大衆化や大衆消費のもたらす民主化効果や社会改革効果といった積極的評価もある。

〔参考文献〕J.オルテガ=イ=ガゼー,寺田和夫訳『大衆の反逆』1971,中央公論社

E.フロム,日高六郎訳『自由からの逃走』1951,東京創元新社

D.リースマン,佐々木徹他訳『孤独な群集』1955,みすず書房