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●村落(西アジア) そんらく

アジア アジア AD 

 Rural Community としての村落は,西アジアの有力言語であるアラブ語でカルヤ,ペルシア語でテフまたはディーフ,トルコ語でキョイと呼ばれる。他地域においてもそうであるように,西アジアの村落の存立は農業生産に依拠しており,農業生産は水資源の供給源と不可分の関係にある。すなわち水資源の供給源のあり方の相違によって西アジア各地の村落の存在形態に差異が生じる。最も典型的なものとして「ナイルのたまもの」と称されるエジプトや,最古の人類文明発祥の地であるティグリス=ユーフラテス両河間地帯を中心としたイラクのような大河川に水資源を求める地域と,イランやシリアに見られる天水によって農業と村落が成立している地域とでは,その農業や村落のあり方に大きな相違が見られる。まずエジプトやイラクのような大河川の沿岸部を中心に展開する農業地域では,大河川から開削した大小の運河に沿って一連の村落が生まれ,米や綿花・サトウキビのような商品性が高く,主に都市で消費される作物が大規模に栽培され,村落は都市に直結した生産の場となっている。こうした地域の村落では運河のシュンセツ※注1※や堤防の管理がその住民にとって最大の関心事であり,運河を流れる水の配分についても,古来,村落の各成員間さらに村落間でさまざまな工夫が凝らされてきた。また農業のほかにも運河と大河川を往来する舟運や岸辺でのアシの採集,さらには河川や運河での漁労も,エジプトやイラクの大河に沿った村落の住民の生活と結びついていた。一方,イラン高原部やシリアなど大河川がなく乾燥地域に天水灌漑による農業を基盤に村落が成立しているところでは,水の供給源の大小より村落の規模はさまざまであり,人口数十万を擁する大都市へと発展した大オアシスもあれば,わずが数戸の家屋から成るにすぎない小村もある。水資源の供給はとくにイランで有名な地下式暗渠(カーレーズ,カナート)・井戸・泉・ため池などによっており,その水量の多寡が村落の規模を決定する。こうした村落での生産物は都市へ供給する穀類やブドウ・メロンなどの果物,各種の野菜などで,農耕地の外で放牧された家畜から生み出される畜産物も村落にとって大きな取入源となっている。10世紀に著されたイスラム世界の地理書において「イスラム世界の三絶景」と讃えられたバグダード南方のヒッラ,サマルカンドのソグド地方は,いずれも運河や河川に沿った地域にあり,ダマスクス郊外のグータは天水灌漑による農業地帯の典型であろう。村落内部の土地所有形態は時代や地域によりさまざまで,一定不変のものはなかったが,共同体としての村落の機能は教会やモスクを中心とした宗教的な紐帯によって維持されてきた。

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