●贈答 ぞうとう
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人に物を贈ったり,またそのお返しをすること。他者または他集団との関係の確認・強化・形成のためにするもので,国家間のやりとりから,外出先からの家族への手みやげまで多様な形態がある。いわゆる未開社会での贈答は,儀礼上もいっそう強い意味をもち,しばしば経済上の取引きや共同体の自衛という色合いも帯びる。国家間のものは,古くは中国と周辺諸民族との関係があり,周辺諸民族からの贈り物はつねに「朝貢」と称せられ,逆に中国からのものは朝貢物よりも多くの場合,高級多額で,このことは中国王朝側の優越性の確認を意味していた。日本社会での贈答はその瀕度も高く,日常生活に占める重要性も大きい。中元や歳暮など,年中行事化したものには虚礼廃止の声もあがるが,それをしなければ義理を欠いているとする通念は広く遍在しており,慣習と人間関係の強制力も働き強く根づいている。また,贈り物を受けると必ず返礼しなければならないと考えるのも特徴といえる。贈答が行われる場合は,大きく分けると定期的なものと不定期的なものがある。【定期的な贈答】日本における定期的な,一般には周年的な贈答には,正月・盆・彼岸・三月や五月の節供(せっく)・年末・祭りの際に行われるものがある。一般に贈答には,共食つまり同じ食べ物を分けあって共に食べることで相手方との結合をはかろうとする意図が根底にあり,そのために時節によって特定の食品を選ぶことが多かった。正月の餅・さけなど,盆のソーメン・塩・サバなど,彼岸の牡丹餅・三月節供の草餅・五月節供のちまき・歳暮の塩サケ・塩ブリ・タラなどがそれで,これらは節日におけるハレの食べ物として宗教儀礼に通じる意味ももち,送り膳やイキミタマと呼ばれる食物贈与,親の膳と呼ばれる饗応の習慣は,親や祖霊と食事を共にすることによって関係を密接化し,あるいは霊供養のために役立つと考えられた。特定の食品の形,たとえば餅の円形,ちまきや菱餅の特殊な形にも,今日の感覚ではとらえられない意味があったと推察できよう。通貨経済の発達につれて,贈り物は食べ物だけでなく多様化しつつあり,共食の趣意は薄くなっているが,贈答から期待される効果は変わっていない。
近時,ヨーロッパを発祥とする習慣である,クリスマスやヴァレンタイン祭,アメリカで始まった母の日も日本で定着しており,それぞれ贈り物の機会として利用されている。
【不定期的な贈答】不定期のものは,吉凶に対しての贈答で,冠婚葬祭などに際しての贈答・病気見舞・留守見舞・忌中見舞・火事見舞・風水害への見舞・普請見舞・出産祝い・新築祝いなどがある。婚礼や出産などの祝い物も凶事ヘの見舞も,前述の定期贈答の場合と同じく,餅や米などの食べ物を贈って共食により親近性を増したり,本人や家族を力づけたりするという意図から出たものといえる。結納のもとの形も酒や食べ物を贈るものであったし,引っ越しそばの習慣もその一例である。もちろん,贈り物は食べ物に限らず,出産・初節供などに,衣服や燈籠を贈る慣習も古くからあった。土産(みやげ)は,もと神供の入れたものを指す宮笥(みやげ)が原形といわれ,信仰が関与していることがわかる。
【返礼】凶事への贈り物以外には,その贈り物の入れ物にオカエシ・オウツリ・オタメ・トシダマなどと各地で称して,贈ってきた物の一部またはマッチや半紙を入れて返す習慣があり,これらの言葉は「賜(た)べ」つまり神から賜わったという語から出たもので,一般に行われる返礼も,神や親との共会の趣意に基づくものであろうと思われる。吉事に対しては,海産物が返礼に使われることが多く,これは海の物に精進の拘束を解く力があると考えられていたようである。また,返礼ではないが,贈答には贈り物を受ける者から働きかけるという慣習も一部にあり,贈与することは善行であるという考えが仏教者の托鉢とは無関係の乞食を生み出したといえよう。