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●先史考古学 せんしこうこがく

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 ヨーロッパの考古学には,ギリシア・ローマの研究から出発した古典考古学とノアの箱舟以前の研究から出発した先史考古学の二つの流れがある。前者は,文献のある時代を研究対象とし,文献と遺跡,遺物が相互に補うことができる。これを古代だけでなく新しい時代までに及ぼし,歴史考古学と呼ぶ。後者は,文字による記録のない時代を研究対象としたもので,考古学のもつ独自な方法論は,主としてこの分野のなかで発達した。文字による記録の出現は,地域によって必ずしも同一ではない。先史考古学の対象となる年代の下限は,メソポタミアでは前3200年のシュメールの楔形文宇の出現までであるが,新大陸では近年の白人との接触までとなり,地域的な差が大きく,歴史的な時代区分にも合致しない。先史考古学では,遺跡・遺物がいつ,誰が何のために制作したかというような年代,制作者,機能などは,文献によることができないため,以下のような独自の方法によって追求される。

【年代】遺跡・遺物がいつつくられたかという年代は,暦年代は明らかにできないが,同じような遺跡・遺物の相互の古さは,発掘調査による出土の層位と遺跡・遺物の型式学的な新古の序列という二つの方法によって解明できる。層位は地質学からの方法の応用で,地表からより深い位置から出土するものが古いという原則から出発し,遺跡・遺物の出土層位の関係から,新古の序列を決めることができる。型式は,遺跡・遺物が時間と地域によって同じものでも変化する法則性をみいだすと,新古の序列を明らかにすることができる。考古学では,遺跡のなかで最も多く出土し,しかも型式的な変化しやすい土器が,編年の基本資料として取り扱われる。土器の存在しない旧石器時代では,石器が編年の基本資料となる。これらの年代は,相互の新古の関係を明らかにするもので,相対年代と呼ぶ。相対年代を暦年代に近づけるためには,暦年代のわかる新しい資料から遡って想定する方法がとられる。近年は,理化学的方法による年代測定が進展している。遺跡から出土する木炭などの有機物に含まれる放射性炭素(14C)による方法をはじめとして,熱ルミネッセンス法,フィション=トラック法,黒曜石の水和層の厚さによる方法,など各種のものが開発・応用されている。これらを測定年代と呼ぶ。

【制作者】遺跡・遺物が,誰によってつくられたかということは,考古学では特定の個人名までをあげることはできない。しかし,遺構・遺物が同じ時代に多くの遺跡で検出されるときは,共通した集団の制作物であると判断することができる。先の型式と呼ぶものは,集団のなかで共通の技術や認識として受け入れられ継承されるものであるから,諸型式の組み合わせを共通して出土する遺跡群は,一つのまとまりのある集団とすることができ,これを考古学では文化と呼ぶ。

【機能】遺構・遣物が何に使われたかということは,遺構・遺物自身から明らかにできないことが多い。その解明には,慎重な発掘調査による方法と,民俗・民族例から類推する方法がある。わが国の古墳時代の円型銅器と呼ばれる遺物は,その形態自身から機能を明らかにすることができなかったが,慎重な古墳の調査によって,かすかに残る楯の痕跡の表面から出土し,楯の表面につけられた装飾品であることがわかった。また,わが国の弥生時代の遺跡から出土する石庖丁は,現在,稲などの穂摘みの道具とみられている。石庖丁という名称は,エスキモーが厨房で使用した庖丁の形に似ているところに由来する。しかし,その機能については,J.G. アンダーソンが,中国の石器時代の石庖丁に共通した鉄の道具が,遼寧地方の農民が粟や高梁の穂摘み具として使用しているのをみいだし,この石器を穀物の穂摘み具とした。今日では,中国,朝鮮,日本の各遺跡から出土する石庖丁石庖丁形鉄器は,農具とみられるにいたっているが,これは民族・民俗例から類推した結果である。