●戦後のドイツ文学 せんごのドイツぶんがく
ヨーロッパ ドイツ連邦共和国 AD
【西ドイツ】ドイツ連邦共和国(西ドイツ)が成立したのは1949年のことであるが,すでにそれまでに西ドイツ文学の前史があること,1949年以後の西ドイツ文学といってもオーストリア,スイスの文学との交流が大きく,ときには不離一体のものであること,東ドイツのような明白な流れがつかみにくく,たいへん複雑にみえることなどをまず前提としておかなければならない。戦後すぐからゴットフリート=ベンの詩やトーマス=マンの小説,ツックマイヤーの演劇のように,すでに知られた作家のものに,47年グループの活躍が加わり,その周辺に多くの作家が現れた。もちろんこれに属さないボルヒェルトの詩や放送劇などもあるが,ツェラーン,バッハマンのようなまったく新しい抽象性をおびた詩や,グラス,ベル,ワルザーのように,戦後のさまざまな思想を集約し,それをドイツ国の歴史の流れにおいてみるようなひろがりをおびた小説は,47年グループを中心とした活動に負っている。そののち1960年代に,しだいに西ドイツの政府への批判が彼らのなかに強まり,1967年まででこの運動は終わった。そのあいだにヴァイス,ホーホフート,キップハルトなどによって,アウシュヴィッツや原爆,またヴェトナム戦争をめぐるアクチュアルな演劇が上演された。しかし,1970年代半ばからは,1969年の社会民主党政権の成立,東ドイツとの基本条約締結などの流れとともに,政治性が急速に失われていったといわれる。だがヴァイスの『抵抗の美学』をはじめとして,アンデルシュ,リンザー,エンツェンスベルガーらによる,ドイツの政治・社会・歴史のなかで自己を問う作品が1980年代においても相次いで現れている。【東ドイツ】現代ドイツの重要なできごとの一つは東ドイツ(ドイツ民主共和国)の成立である。1949年に東西ドイツができてから,東ドイツではこれまでとはっきり違った社会主義文学が発達することとなる。それは社会主義建設をうたいあげたアンソロジーに最も明らかである。それらは1960年代,70年代,80年代にと,無数の詩人たちを登場させている。ブレヒトがすでに1953年に若いシュトリットマターの社会主義劇を助けた例が先駆的である。今や労働が,産業や農業の社会主義化が,バイエル,ハックス,ミュラー,ブラウンなどの演劇で扱われる。それらの現実に対する姿勢をめぐって,多様な批判が展開され,またそれが過去を扱う歴史劇や抽象的な寓話劇・教育劇にも繰り返される。また小説になるともっと多様である。アンナ=ゼーガースはこの国の先駆的小説家で,社会主義国への道,社会主義国での諸矛盾とその克服の道を描く。それにつづいて若い世代が登場するが,なかでもカント,ヴォルフ,ノイチュ,ボブロフスキーが知られる。そこでは新しい社会のなかでの人間のあり方が多様に扱われているが,そのためにはつねにファシズムの昔やドイツの過去にさかのぼり,そこから投影し直すことも必要となる。それは過去の克服と未来の先取りのなかに創造されようとしているのである。この国の文学理論は社会主義リアリズムを基調とするが,それがここ10年のうちに幅のある,柔軟なものに変わっていくようである。